医用材料工学
医用材料工学
医用材料工学

医用材料工学分野

教授
成島尚之
准教授
上田恭介

QOL(生活の質)維持・向上のために私たちができること。たゆまぬ研究の蓄積が、やがて新しい医療技術に結ばれる。

 

失われた身体機能を補完。骨や歯に代わる生体材料の探究。
我が国は、総人口に占める65歳以上の割合が約25%という、世界でも類をみない超高齢社会に突入しました(平成26年版「高齢社会白書」)。加齢による身体機能の低下や喪失があった場合にも、それを何らかの方法で補い、年齢に応じた健康的で快適な生活を続けていきたい…とは多くの人々の願いでしょう。事故や疾病により失われた生体機能を再建する医療技術は、QOL(Quality of Life:生活の質)の維持・向上をもたらしてくれます。特に人工関節/人工骨に代表される「硬組織(骨、歯)代替デバイス」は、疼痛からの開放や自立歩行能力の保持といった点からも大いに注目されています。
硬組織代替システムとしては、すでに体への親和性の高いチタンなどを用いた人工関節/人工骨、人工歯根(インプラント)が実用化されていますが、機能性(特に耐久性)・安全性のさらなる向上が望まれています。成島研究室では、人体の骨や歯に代わる生体材料探究に向けて、金属系およびセラミックス系バイオマテリアルの基礎的な反応や特性を明らかにし、それらの制御を物理化学的な視点から解析することを目指しています。

金属系・セラミックス系両方をターゲットとした医用材料の研究。
成島研究室では、材料物理化学を基礎として「チタン・チタン合金、コバルト-クロム合金の組織制御」「金属系生体材料の腐食挙動とアレルギーの関係」「セラミックス系材料であるリン酸カルシウムを用いた表面処理および骨適合性向上に関する研究」等、金属系およびセラミックス系両方をターゲットとした研究を行っています。これらの取り組みは、東北大学の加齢医学研究所、歯学研究科、薬学研究科および金属材料研究所との密接な協力ならびに信頼関係を基に推進しています。異なる研究フィールドを持つ研究者との共同研究は、大きな刺激をもたらしてくれます。
成島研究室が取り組む医用材料研究は、他の多くの研究開発がそうであるように、製品として形になり、人びとの暮らしに資するようになるには長い年月を要します。とりわけ人体に使用する生体材料は、多くの実験と臨床試験を重ね、効果・効能、安全性が十分に立証され、承認を得たのち初めて医療の現場で使われます。ひとつの医療器具の背景を構成しているのは、コツコツとたゆまず続けられた実験・観察・評価の蓄積であり、そうしたデータや知見の積み上げなくして、生体材料の進化はあり得ないのです。いまこの瞬間も続く成島研究室の一つひとつの地道な研究が、未来の医療の現場へと続いています。

Projects

RFマグネトロンスパッタリング法によるリン酸カルシウムコーティング膜の作製

硬組織代替デバイスの機能性・安全性のさらなる向上を。研究のその先に、人びとの健やかな未来がある。

(a)は、RFマグネトロンスパッタリング法により作製した非晶質リン酸カルシウムコーティング膜、(b)は家兎大腿骨に埋入後の走査型電子顕微鏡写真。膜厚0.5μm程度の非晶質リン酸カルシウム膜が、埋入により吸収され、新しい骨がつくられている様子が分かります。

実験中の偶然の発見が、ブレークスルーを生む。

現在、硬組織代替デバイス(人工関節/人工骨、人工歯根など)に広く用いられている材料に「チタン」があります。どうしてチタンに生体適合性があることがわかったのでしょうか。それはまったくの偶然からもたらされた発見でした。 1952年、ウサギの体内に生体顕微鏡を入れて観察実験を行っていたスウェーデンのブローネマルク博士は、器具を取り出そうとしたとき、チタンと骨がくっついて取り外せなくなっていることに気がつきました。このことからチタンと骨の組織が拒否反応を起こさずに結合することがわかったのです。歯科医でもあった博士は、1965年、世界初の総チタンによるデンタルインプラントの臨床応用を開始。博士は『現代デンタルインプラントの父』といわれています。
ブローネマルク博士は、チタンと骨の生体親和性といったいわばマクロな状態をとらえたわけですが、その後研究者たちはミクロな世界ではどのような現象が起きているかといった探究に夢中になりました。1970年代には、チタンと骨は直接ではなく、リン酸カルシウムを介して結合することが明らかになり(ちなみに骨のおよそ70%はリン酸カルシウムの一種ハイドロキシアパタイトで構成されています)、その迅速で強固な結合を促すために、生体材料としてのチタンへのリン酸カルシウムコーティングがされるようになりました。しかし従来の方法では、チタン基板とコーティング膜との密着性などに課題がありました。

スパッタリング法の採用で、従来の課題をはね返す。

成島研究室グループでは、低温での薄膜プロセスが可能なRF(高周波)マグネトロンスパッタリング法に着目。これは、高周波によって生成させたプラズマ中のArイオンをターゲット(この場合はリン酸カルシウム)に衝突させ、はじき飛ばされたターゲット粒子を基板上に堆積させるという方法です。同グループでは、骨形成に遺伝子レベルで関与しているとされるSiを含んだターゲットを作製し、RFマグネトロンスパッタリング法によりチタン基板上にSi 含有非晶質リン酸カルシウムのコーティング膜を形成することに成功しました。今後は、さまざまな評価を重ね、プロセスの最適化を図っていきます。
事故や病気、加齢によって、身体機能の喪失や低下を生じても、それに代わる器具などを用いることにより、QOL(生活の質)を維持・向上させることができます。成島研究室のミクロな世界での奮闘は、人びとの豊かで健やかな明日へとつながっているのです。

Topics

成島研、一年の始まりは賑々しく~餅つき大会~
研究もねばっていきましょう?!

新年のすがすがしい空気に響くペッタンペッタンというのどかな音。成島研究室恒例の新年行事「餅つき」の始まりです。前日の餅米の仕込みに始まり当日の蒸し方、搗き方手順などは、先輩から後輩へと受け継がれてきた伝承の技(?)。しかし見た目以上に難しいのが杵つき。臼の縁を叩いてしまったり、あわや返し手を直撃…などという場面も。そんな中、軽やかなリズムとともに見事な搗きっぷりを披露する学生さんが。聞けば「毎年暮、祖父母の家で手伝っていました」とのこと。人に歴史あり、ですね。
搗き上がった餅は、こちらも成島研特製の雑煮、あんこ、きなこなどいろいろな味付けで。毎年、創作メニューが登場しますが、味が独創的かつ斬新すぎて評価の分かれるところも(笑)。事務室の方々にも振る舞って、みんなでワイワイとおいしくいただきます。一年の無病息災と学業成就を願いながら。

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