材料電子化学
材料電子化学
材料電子化学

材料電子化学講座

教授
武藤 泉
助教
西本 昌史

「金属材料」の宿命といわれる腐食のメカニズムの解明を通じて、安全で快適な社会や暮らしを支える高耐食・高機能な材料の開発を。

 

“腐食”をいかに制御し、材料の高機能化と長寿命化を実現していくのか。
小学校や中学校の授業で、希硫酸や希塩酸の中に亜鉛などの金属片を入れる理科実験を体験された方もいらっしゃることでしょう。これは、水素ガスを発生させる実験として学習しますが、金属が溶解する、すなわち腐食する過程でもあります。金属の腐食は、環境(気体・液体・固体)と触れている界面で酸化還元反応が起こり、電子のやりとりを伴った化学反応(電気化学反応)が発生することで進行していきます。< 材料>が存在する環境下での相互作用により、さびたり朽ちたりすることは宿命とも言えるもので、自然科学の法則(物質が自由エネルギーの小さい状態になろうとする現象)にも則るものです。しかし、社会のあらゆる構造物や輸送用機器に使用され、人びとの生命を預かり、安全で便利・快適な社会を担っている以上、材料の腐食をいかに制御するか、そのメカニズムの解明に基づく防食対策が非常に重要になってきます。GNPの2~3%ともいわれる金属材料の腐食による経済損失も無視できないものです。また、これまで以上に軽く、強く、環境負荷の低い材料の開発に向けた基礎研究も待望されています。
武藤研究室では、電気化学、表面解析および薄膜合成の高度かつ独創的な知見と技術を用いて、材料やデバイスの高機能化と長寿命化をめざす研究に取り組んでいます。

エネルギー・環境問題を解決に導く「材料」の可能性にアプローチ。
<材料>は、現在私たちが解決すべき課題として掲げるエネルギーや環境問題に対し、大きな可能性と潜在力を有しています。武藤研究室では、従来の発想にとらわれない新しいアプローチの下、マイクロ電気化学プローブや走査ケルビンプローブといった新しい計測手法を駆使しながら、今日的課題解決のための新しい装置やプロセス用の材料開発を行っています。現在進行中のホットなテーマとしては、局部腐食(孔食)機構の解明による省資源型のステンレス鋼の開発、次世代の発電システムとして注目される水素-酸素燃料電池の電極触媒の劣化挙動解析、自動車などの高速輸送機械や携帯用電子機器の軽量化のための高耐食性マグネシウム合金および新しい表面処理プロセスの開発などがあります。
新しい着想に原動力を付加するのは、自作の実験・計測装置。世界で“ここだけ”の独自性を生む鍵です。

Projects

省資源、マテリアル・セキュリティをかなえる“グリーンステンレス鋼”の開発に向けて

世界初!ステンレス鋼の腐食反応をビデオ画像でキャッチ。

0.1 M NaCl 溶液中でのSUS304ステンレス鋼のアノード分極測定時におけるMnS介在物起点のピット成長過程の光学顕微鏡写真。(ピット発生直前の(a)を0sとした。)当研究室で開発された、リアルタイム観察機能を有するマイクロ電気化学システムを用いている。
出典:A. Chiba et al., J. Electrochem. Soc., 159(8), C341( 2012).

構造物の信頼性を支えるステンレス鋼の優れた耐食性。

ステンレス鋼と言えば、さびに強い鋼の代表として広く知られています。しかし決してさびないわけではなく、例えばしっかり洗浄していないステンレス流し台(シンク)に空き缶などを放置すると、赤サビ状のものが発生することがあります。さびは、金属が腐食していることを示すひとつの状態であり、見た目だけではなく、強度や機能性を損なうため、構造体や発電・工業プラントに生じた場合には、重大な事故を引き起こしかねません。
耐食性が高いとされるステンレス鋼は、含有する合金元素クロムが空気中の酸素や水と反応して表面に数ナノメートルという不働態皮膜を形成し、鋼の素地を環境から遮断しています。しかし、大量の塩化物イオンを含む海水などにさらされることで、不働態皮膜が局部的に破壊される孔食(pitting)が生じることがあります。ピットはしばしば鋼中に深く成長するため、使用されている部位によっては危険度が高まる可能性があります。
さてここで「厳しい環境でも限りなく腐食しにくいステンレス鋼をつくることはできないのか」という疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんね。答えはYES。現代科学の粋を集めて精錬される超高純度ステンレス鋼は、非常に優れた耐粒界腐食性を示すといわれますが、価格が“金”並みに高額な上、機械的強度も低いという短所があります。高性能・省資源・低廉―品質が高く、工業・商業的に適切適正で使い勝手の良いステンレス鋼が望まれています。

“孔食”のミクロなメカニズムの解明を通じ、次世代のステンレス鋼の開発を。

局部腐食である「孔食」のマクロな成長機構は、近年の研究により明らかになっていますが、界面で起こっていることを実際の画像で確認されたことはありませんでした。武藤研究室では、自作装置によってピットができるプロセスを世界で初めてビデオ画像で捉えることに成功。大きな注目を集めました。
孔食の起点となる反応については、未だにどのようなメカニズムで塩化物イオンが不働態皮膜を局部的に侵食するかはわかっていません。今後は原子・分子レベルでミクロな特性が解明・理解されることによって、新しい視点と発想によるステンレス鋼が開発できるのではと武藤研究室では考えています。例えば現在、耐食性・耐熱性に優れた材料として普及している「18-8ステンレス(SUS304)」は、クロム(Cr)18%、ニッケル(Ni)8%、残りが鉄(Fe)で構成されています。海外からの輸入に頼るクロムやニッケルを節約したステンレス鋼の開発が叶えば、省資源やマテリアル・セキュリティといった時代・社会の要請に応えることができます。
ステンレス鋼が発明されて100年。次なる100年に向けて、武藤研究室が独自に掲げる“グリーンステンレス鋼”へのチャレンジングな取り組みは続きます。

Topics

日焼けした笑顔がまぶしい『夏旅行』
釣り、花火、海水浴にスイカ割…

先生への日頃の感謝を込め、また研究室メンバーの親睦を深めることを目的に、毎年実施しているのが「夏旅行」。武藤研究室の前身である原研究室から引き継がれる恒例の行事は、M1(修士課程前期1年生)が幹事役を務めるのが慣例。夏休み期間中の8月上旬に1泊2日の旅程で企画されます。
昨年(2013)年は、酒田港(山形県)から船で90分、日本海に浮かぶ「飛島」へ。ここは全国の太公望が集まる釣りのメッカ。到着後早々、海釣りに挑戦です。もちろんエサや釣竿は持参済み。アジ、イシダイ、ボラなどの釣果は、民宿のおかみさんに調理してもらい、夕食に美味しくいただきました。二日目は海へ。お約束のスイカ割で大盛り上がり(写真)。日焼けした笑顔が、夏旅行の楽しさを物語っています。