創形材料工学分野

教授
安斎浩一

豊かな科学技術社会を支える、古くて新しい“鋳造”の技術。精度・生産性アップ、コストダウン…
多様化するニーズに研究力で応える。

 

お茶の間から宇宙まで。暮らしや社会になくてはならない鋳物の技術。
私たちの身の回りにあるあらゆる製品は、元はといえば何かの材料からつくられています。材料は製造の過程において、“ 形”と“ 性質”が与えられ、暮らしや社会に役立つもの(素形材)になります。金属を始め、木材、石材、セラミック、ゴム、プラスチックなど、材料には多くの種類があり、それぞれの特性や個性を生かすための製造方法が生み出されてきました。中でも「鋳造法」は、溶かした金属材料を型の中に充填し凝固させることで、複雑な形状を持つ部品や部材を製造する技術で、紀元前4000年頃のメソポタミアにそのルーツを見出すことができるといわれています。
日本で生産される素形材の約半分が、鋳造法で作られる「鋳物(Casting)」です。鋳物というと、南部鉄器といった伝統工芸品をイメージする方が多いかも知れませんね。実際はそのほとんどが工業製品の重要部品として利用されています。例えば、自動車の動力源であるエンジンの生産には、鋳造法が不可欠です。環境に対する負荷を低減したりエネルギー消費を抑えたりするために、アルミニウムやマグネシウムの軽合金を用いて、大型マシンを使ったダイカスト法と呼ばれる手法でも製造されています。ロケットエンジンの主要部品(タービンブレードなど)も「鋳物」であり、高温に耐えられる超合金を用いて、精密鋳造法と呼ばれる特殊な方法で製造されています。

技術者の勘や経験を、コンピュータシミュレーションによって普遍化。
鋳物は、溶解させた金属原料(溶湯)を型に流し込みつくられますが、あたかも水が器の形に従うように、複雑な形状でも自由自在に造形できる点が大きな特長です。しかし、高い精度や品質を持つ製品をつくるためには、極めて高度な制御が必要になります。一方、鋳造プロセスの設計は、長らく技術者の勘や経験といった暗黙知に依存した手法が主流をなし、鋳型形状(方案)の設計や適切な溶湯温度の決定には、多くの時間と費用を必要としてきました。
安斎研究室では、個々人が所有する属人的な技を、誰もが使える“ 開かれた技術”にしていくため、コンピュータシミュレーションの研究開発に取り組んできました(Pick Upをご覧ください)。その一部はすでに商品化され、国内外の鋳造メーカーで導入されています。
より軽量で高強度、信頼性が高く、低コストの鋳物を―安斎研究室は、年々高まるニーズに独自の研究力で応えていきます。

Projects

勘や経験による“職人技”に科学の眼。鋳造シミュレーションシステム「ADSTEFAN」

鋳造プロセスの“ブラックボックス”=鋳型内での挙動をコンピュータシミュレーション、3Dで視覚的にとらえる。

赤丸の部分が、欠陥が発生している箇所。溶融金属(溶湯)の温度が低下し、なおかつ流入時に溶湯が衝突するとできやすい。実際の製品に生じた欠陥と、解析による予測が一致した好例である。

研究成果<Stefan3D>が、鋳造CAEシステム「ADSTEFAN」として世界へ。

携帯電話、各種家電から自動車部品まで、今日の私たちの快適で便利な暮らしは「鋳造品(鋳物)」によって支えられていると言っても過言ではありません。溶かした金属(必要な化学組成を持つように配合したもの)を高度な技術で作製した鋳型に流し込み、冷やして固める鋳造プロセスは、実は非常に複雑な現象を伴うものですが、従来は鋳造技術者の勘や経験といった暗黙知によって、製造工程の管理・改良が行われてきました。
「鋳物の流動性」「凝固時の変形・残留応力」「湯流れ(溶融金属が鋳型の中で流れる挙動)解析」などの研究に取り組んできた安斎研究室では、それら蓄積した知見やデータを活用した「鋳造CAE(Computer Aided Engineering)システム<Stefan3D>」を研究・開発。総合電機メーカーへの技術移転により、ソフトウェア「ADSTEFAN」として製品化され、現在では国内のみならず、アジア各国で広く利用されています。中小メーカーでも使いこなすことができる優れたユーザーインターフェイスを実装し、販売国・地域におけるシェアはNo.1を誇ります。

鋳造欠陥を事前に予測、コスト低減に大きく貢献

鋳造シミュレーションシステム「ADSTEFAN」は、内部で起こっている現象を見ることができない“ブラックボックス”であった鋳型内での溶融金属(溶湯)の流入状態や凝固過程をシミュレーションし、そのプロセスをコンピュータグラフィックスにより三次元で視覚的に展開することが可能です。溶湯の温度低下や湯流れ衝突時にしばしば発生する鋳造欠陥を事前に予測できるので、開発期間の短縮、試作回数の低減、品質の向上が可能で、コスト低減に大きく寄与します。特に、大型で精巧な鋳造品のトライアルには、非常に多くの予算が費やされるため、コンピュータシミュレーションの果たす役割が大きなものとなります。
精密機械の品質を担保する鋳造品には、精度、強度、薄肉軽量、平滑度、長寿命、生産性など、多くの課題が課せられます。社会産業の要をなす材料といわれるゆえんですが、鋳造シミュレーションシステム「ADSTEFAN」は、毎年新しい研究成果や技術を反映させた新バージョンを発表し、高度化・複雑化する鋳造現場のニーズにきめ細かな対応をしています。2010年には、産学官連携の推進に多大な貢献をした先導的な取り組みとして、第8回産学官連携功労賞表彰「文部科学大臣賞」に輝いています。

Topics

“ものづくり”の面白さを子どもたちに伝授『鋳物教室』
安斎研のお家芸「鋳造」を通じて、

学部生向けの創造工学研修や基礎ゼミを展開する「創造工学センター(発明工房)」では、地域社会貢献の一環として、市内の小学6年生を対象とした「子ども科学キャンパス」を開催しています(市教育委員会と共催)。学生さんのレクチャーによる楽しく本格的な実験を体験してもらい、科学技術や工学に対する関心を高めてもらおうというこのイベント、数種あるテーマのなかで、「鋳物教室」の回を担当しているのが安斎研究室です。
型は、花やイルカ、星、カードゲームにちなんだ勾玉や剣など30種類以上を準備。それを基に砂型をつくってもらい、スズ・ビスマス合金を流し込めば(この過程は危険なので学生さんが担当)、オリジナルキーホルダーの出来上がり。教える立場になってわかる、指導することの難しさ。いつもと異なる視点を得られるよい機会です。

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