素形材プロセスで生じる欠陥を防げ!組織制御により高機能な材料開発を。
「素形材」―あまり聞き慣れない言葉かもしれませんね。これは“材料”に熱や力を加え、形を与えた部品や部材のことを指します。私たちの身の回りの製品の多くは、この素形材により作られており、まさに“ものづくりの原点”といえるものです。ここで言う材料とは、工業的には金属、セラミックス、プラスチックなどで、それらを素形材にするプロセスには、鋳造、圧延、鍛造、プレス、粉末冶金などがあります。これら素形材プロセスに求められることは、製品の表面や内部に、破損などの原因となるような欠陥が生じないように変形や流動を制御して、部品や部材に複雑な形状を与えるとともに、必要とされる材料特性を発揮するように材料内部のミクロ組織を制御することです。
及川研究室では、素形材プロセスの中でも、塑性変形(物体に力を加えて変形させる)を伴う圧延、鍛造、押出し、引抜きなどのプロセスを用いながら、鉄鋼材料、ニッケル合金、コバルト合金、アルミニウム合金、マグネシウム合金、亜鉛合金などの構造用材料、および磁性材料、形状記憶材料などの機能性材料の高機能化とプロセス開発に挑んでいます。また、変形および熱処理中のミクロ組織や欠陥の変化を、材料科学的に解明することも及川研究室が掲げる重要なテーマ。これらは新しい材料やプロセスの開発に不可欠な知見になります。
技術者の暗黙知によるプロセスから、コンピュータ支援による探索・開発へ。
これまでの素形材プロセスでは、技術者の経験と勘(暗黙知)に頼ることの多い、技能偏重のものづくりが行われてきました。また、材料開発に当たっても試行錯誤をくり返す実験的手法が採用されており、これは新材料の発見や開発に貢献する一方で、多くの時間と費用を要してきた側面があります。
及川研究室では、実験による現象解明だけではなく、原子スケール、メソスケール(ナノ、ミクロ)、バルクスケール(ミリ以上)のさまざまなコンピューターシミュレーションを駆使して、加工プロセス中に材料で生じている現象を深く理解することで、新しい材料およびプロセスの迅速な開発に取り組んでいます。将来的には、材料物性データベースとマルチスケールシミュレーションを利用した計算機支援による材料・プロセス設計手法の確立を目指しています。これによってさらに効率よくスピーディーに、社会的課題に応える材料や国際競争力を持つ材料を探索し、開発していくことができると大いに期待されています。