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世界の基盤、“材料”という選択。社会を変え、新しい時代をつくる研究の最前線。

人類の進化と発展に「材料」有り。

 我が国の多くの人にとって、「材料」は初めから信頼できるものであり、流し台は錆びず、電気製品の部品、自動車や飛行機、工場の設備、橋梁・道路等の社会インフラも、丈夫でめったに壊れないのは当たり前で、「もっとこの材料が強ければ…」などと思うことはあまりないのかもしれません。確かに日本の材料産業は世界を牽引しており、例えば高度成長の推進力となった鉄鋼業は、近年、価格競争で新興国に厳しい戦いを挑まれながら、なお技術的優位性を保っています。また、航空機製造の中核である複合材料製造技術も世界をリードしています。

 思えば、石器時代、青銅器時代、鉄器時代と区分される人類の歴史は、すなわち“材料の歴史”であり、文明を成り立たせる根源でした。同時に「材料」は時代の覇者を決める重要な因子で、紀元前1400年頃に鉄器製造技術を持ったヒッタイト人は、門外不出の製鋼技術でつくった強力な武器で繁栄を誇りました。同様にローマン・コンクリートを発明したローマ人も、今に残るコロッセオやパンテオンという素晴らしい社会インフラを整備しました。18世紀半ばのイギリスに興った産業革命も、製鉄技術が改良され、鉄鋼の大量生産が可能になったことに始まるのは有名な話です。

 現代においてもシリコン単結晶作製技術の進歩が、電子回路製造技術、その微細化・集積化へとつながり、また医療・歯科用のセラミックスや生体機能性高分子は、治療の概念を変えました。最近の自動車ボディの近未来的デザインも、加工性と強度を兼ね備えた鋼材の開発によって初めて実現できたものです。

 このように「材料」は、文明社会の“物資的な豊かさ”を縁の下で支えており、さらに新しい特質を持つ「材料」の発見と開発は、常に社会や暮らしを一変させる可能性を持っています。日本はこの材料科学をリードしてきた国の一つであり、特に東北大学は、我が国の、さらに世界の材料研究を支えてきた存在です。材料のすごさをもっと多くの人と共有したいと考えています。本学材料系の伝統を、今後も引き継いでくれる人材の育成は、我々の使命です。材料系の研究内容や生きた情報に触れることの少ない高校生諸君が、本学の材料系を正当に評価してくれることを切望しています。

「材料」を核に広がっていく研究テーマ。幅広い興味と関心に応える。

 東北大学工学部は来年2019年に100周年を迎えます。歴史と伝統を誇る材料科学総合学科(マテリアル・開発系)は、これまで世界を先導し、社会を変革する研究成果を生み出してきました。産業界においては卒業生が活躍し、高く評価されてきました。

三原 毅教授

 私自身は、小学生の頃から電化製品や自転車を分解し、また簡単な改造をしたりするのが好きだったので、大学進学でもあまり深く考えずに工学部・機械を目指しました。同時に別の理由で仙台に興味を持っていたので、高校2年春の進路面談で、志望先を東北大学工学部機械と書いたら、当時目を掛けてくれていた進路指導の先生が「東北大か、ならば機械じゃなくて金属(当時)だろう」と言うなり、その場で書き換えてしまいました。当時の私は本学材料系の実績や知名度も知らずに、そのまま入学に至った訳で、随分いい加減な選択をしたようにも思いますが、今となっては運命というか、人生の面白さを感じています。

 ただ入学しても、私にとって「金属(材料)」は未知の分野でした。専門教育が始まってやっと、鉱石から金属を取り出し、化学成分を変え、様々な熱処理で組織を制御することで素材ができ、さらに多種多様な加工技術で製品になることが分かってきます。さらに工業製品の源である「材料」は、全ての工学分野と深く関連しており、機械、エネルギー・環境、情報、土木・建築、医学といった異分野と横断的に強く連携していること、さらにこれらが全て研究対象になることを漠然と把握した頃、研究室への配属と卒業研究が始まります。

 本学材料系の最大の特徴は、世界最大の材料研究拠点であることです。大学院に進むと、関連研究所の先生を加え、51名の教授から指導教員を選ぶことができます。この研究体制は世界最大であり、仙台は材料研究のメッカと呼ばれています。学部・修士とも、各学年の学生数が100名強であること、51の研究室には准教授・助教も多数在籍することを考えると、本学の少人数教育のレベルがおわかり頂けると思います。この充実した体制によって初めて、伝統の研究中心主義(良い教育も優れた研究の中で可能となる)が実現できるのです。

 そしてもうひとつ、就職時のアドバンテージも特筆すべきものでしょう。本学科・研究科が輩出する人材への高い評価は、連綿と積み重ねてきた先輩の活躍の歴史に裏打ちされており、企業からの期待はとても大きなものがあります。社会に送り出した卒業生は、卒業後も本系教員が支援し続ける体制も取られており、学生の就職は単に個人の就職に留まらず、大学と企業の信頼や連携の始まりの側面も強いのです。卒業生も就職後に期待の大きさを実感する場面が多く、例えば「東北大の材料出身ならば、△△△(専門知識や先端技術)は当然分かるだろう」と問われたりするようです。知らないとも言えないので、自宅に帰って勉強し直して対応することを繰り返しているうちに「さすが東北大」と評価され、優れたエンジニアに育っていきます。こうした卒業生の奮闘や努力が、本学材料系卒業生の良い意味での “神話”を生み、その伝統の連鎖が“神話”を継続・発展させているのではないかと考えています。どんな環境にあっても、新しい知見や技術を学び続ける“姿勢と意欲”こそ、大学において修養してほしい能力です。

試行錯誤の失敗の克服が、社会や未来を切り開く原動力になる。

 研究には、困難や挫折が付き物です。しかし、ひょんなことからもたらされる発見や課題解決、それに伴う喜びや充実感こそが、努力への報酬であり、そこにやりがいや面白さを強く感じる人が研究者になります。

 私の研究テーマの中核は、主に超音波を使った材料の非破壊評価です。高度成長期を通じて建設された国内の各種プラント等の鋼構造物や、橋梁や道路、高層ビルなどを構成する部材は、これから老朽化の正念場を迎えます。日本が右肩上がりで成長していた時代、私たちは構造物が老朽化したら、壊して建て直せば良いと考えていましたが、現在の日本は景気の停滞と人口減少で、社会インフラが古くなっても、気軽に更新できる状況にはありません。

 例えば橋梁は国土交通省の試算では、近い将来4万橋が通行止め、あるいは通行制限が必要になると予測されています。救いは、現在の部材保守の体制は、大きな尤度を持って実施されており、特に検査や評価の技術には改善の余地がおおいにあることです。材料側から見れば、まだ安全に利用できる部材でも、欠陥が見つかると盲目的に交換したり補修したりしています。つまり本当に危険な部材とまだまだ使える部材を区別する面倒を避けて、全て交換することで安全に運用してきた訳です。もし部材を信頼性の高い非破壊検査法で定期的に計測し、本当に事故につながる欠陥が見つかった場合、その部材だけを交換・補修する体制を取れば、古い構造物でも安くかつ安全に使い続けることが可能で、社会インフラの維持コストは低減できる可能性があります。一見“材料”とは関係ないように思えるセンサーや非破壊計測技術の開発は、インフラ材料の寿命を延ばし、より安全に構造物を利用するための重要な材料関連技術なのです。

世界を先導しよう、未来を見つめよう。まだない価値を生み出そう。

 大学は学修・研究の場であるとともに、様々な個性を持った師・先輩・友人との出会いの場であるとも言えるでしょう。クラブ・サークル活動などを通じて、他学部・他学科の学生と交流できるのは総合大学の強みでもあります。これらの交流を通じ、エンジニアとして多様な価値観を身に着けてほしいと願っています。また、海外で見聞を広げ、広い視野を養うことも学生時代に経験してほしいことの一つ。幸い、本学科・研究科では学生の海外派遣・留学をサポートする様々な制度・システムがあります。ぜひ活用して、海外の学生や若い研究者とのネットワークづくりに役立ててほしいですね。

三原 毅教授

 日本は、少子高齢化と人口減少、バブル崩壊以降の国際競争力の低下や、膨大な財政赤字と年金問題等で、最近学生と話をすると、大きな夢や目標は持てないと言われることがあり心配しています。しかしこれらの困難を解決するのは、若者が担う日本発「イノベーション」だと思います。これまでの日本の教育は、高度成長を支える標準的な優等生を多数育成して大きな成果を上げてきました。しかし現在、多くのメーカーでは、稼ぎ頭の製品が直ぐに新興国等との過酷な競争に晒され、優位を保てる期間が短くなって、常に次の稼ぎ頭を見つけて育てる必要があるので、エンジニアには独創性と開発力が強く求められています。しかし独創性は簡単に身に着けられるものではなく、たくさんの失敗とそれを乗り越えた成功体験の積み重ねによって初めて得られるのだと思います。そのような意味で、大学での教育で最も重要なのは、まず卒業論文であり、そして修士論文で、与えられた未知の課題に挑み、試行錯誤し失敗しながら、ハードルを乗り越える体験が創造教育の根幹です。本学は、学生一人一人がチャレンジングな研究テーマを展開できる少人数教育体制、装置や施設を含む恵まれた環境があります。

 世界を動かし、未来を変える高い潜在力は、若者の皆さんが握っています。新しい価値を生み出す革新の萌芽を、このキャンパスで育んでほしいと強く願っています。