工学は人の役に立つための学問。
新しい研究環境で、やりがいを実感してください。

マテリアル・開発系 系長 安斎浩一

マテリアル・開発系系長の安斎浩一教授(創形材料工学)に、東北大学の材料科学総合学科の特色などについてお話を伺いました。

東北大学の材料科学総合学科では、どのようなことを研究しているのですか?また、どんな特色がありますか?

まず「工学とは何をするところか?」からお話します。高校生の皆さんに聞くと、自動車を作る、整備をする、電気工事をする…そんなイメージがあるようですが、そういった「決まったことを決まったようにやる」ルーチンワークではありません。「決まっていないもの」つまり「新しいこと・モノを作り出す・発明する」のが工学なのです。今までにない材料、機械、電気…を可能にするのは、みんな工学なんですよ。

では、その「工学」の中で「材料」では何をしているか。材料がない物はありませんから、材料は、あらゆる「モノづくり」に関わる分野です。材料を極めると、自動車、製鉄、回路の設計、電気、化学、あらゆる分野で仕事ができます。東北大学の材料は、日本最大規模です。世界的に見てもトップクラスであることは間違いありません。幅広い分野について一度に全部学ぶことができます。筋肉についての研究をしている先生もいますし、半導体の研究をしている先生もいますし、機械、化学、電気など他分野から来た先生もいます。あらゆる材料の共通点から応用まで、幅広く身につけることができるのが東北大学の材料科学総合学科の特徴です。

東北大学の材料研究には伝統があり、卒業・修了した先輩が世の中に出て企業や研究所で成果を出しています。鉄鋼関係など特に伝統のある分野だけでなく、自動車、半導体、医工学、あらゆる分野で活躍しています。 各種の受賞という形でも社会から評価をいただいています。最近では本学出身のインターメタリックス社の佐川眞人博士が、日本国際賞というノーベル賞に匹敵する賞を受賞しました。世界で一番強い磁石、ネオジム磁石を発明した方です。電気自動車など今後に欠かせない技術です。

他にも、各種の賞を受賞した先生がたくさんいます。ぜひ安心して入学していただきたいと思います。

大学での教育ではどのようなところに力を入れていますか。

研究の中では何をすれば世の中の役に立つかを意識できるようにしています。例えば私の研究室では「鋳造」という非常に古くからある研究をやっています。あらゆるエンジンは「鋳造」という技術がないと作れません。例えば自動車に興味のある人だったら、自動車のエンジンを高性能化するには、燃費を上げるのはどうしたらいいか── そういったことにこの技術が役に立つかもしれない、と念頭に置いて、基礎的な実験に取り組む。自分がやっていることが、実際の製品に生かされるかもしれないと考えると、やりがいがありますよね。東北大学が標榜している「実学」を実践しています。

卒業生にアンケートを取りますと、カリキュラムの中で実験が豊富であったことが、就職してから役に立ったという声が非常に多いです。専門書があればできる座学と違って、実験し、レポートを書いて、提出する──こういったことを重ねていくうちに、社会に出ても通用する実力がついていきます。

カリキュラムという点では、JABEEという制度があります。認定された学科の卒業生は、技術者としてある一定レベルにあることを保証するというものです。東北大学の材料科学総合学科は、日本で最初に、材料の分野でJABEE認定を受けました。認定を受けるためには、絶えずカリキュラムを変えていく努力が求められるんですね。

例えば卒業論文は、プレゼン能力、研究能力、作文能力、あらゆるエンジニアに必要な能力を学ぶ貴重な機会です。これまでは最後の卒業論文の発表会のみでしたが、中間発表会も設けました。テーマを与えられて、自分なりに過去の研究動向を調べて、自分はこういう研究をやろうとしている、この研究をすれば世の中にこんなに役に立つ、ということをプレゼンさせる。すると、前より学生の理解度があがりました。教員としても、中間発表の段階でその学生に何が不足しているのか、どこを強化していけばいいかが、わかるようになった。学生にとっても我々にとっても、良かったと思っています。日本はものづくりで成り立っている国ですので、いかに優れた技術者を世の中に輩出するかで大学の価値は問われると思うんですね。これからも高い評価をいただけるよう、我々も学生を教育したいと思っています。

それから、英語教育に力を入れています。材料科学総合学科では卒業論文・修士論文どちらも英語で発表することを、工学部の中で一番最初に始めました。学科独自にネイティブの英語の先生による教育を行なっています。材料に関する専門用語にも詳しい先生で、学会で発表するような学術的な目的の英語に的を絞っています。卒論や修論の発表の際にも指導してくれます。ですから、わざわざ英会話教室に通わなくても、それに相当する勉強ができるということです。実力がつきますから、ほとんどの学生が履修していますよ。世界を相手に競っている部分がありますので、国際的な技術者になるために、やはり英語は欠かせません。

海外の大学との交流活動もあります。その1つのPOSTECHは韓国の大学との交流で、1年生から参加できる学生主体の活動です。韓国の学生は英語が上手なので、刺激を受けるようですね。日本人学生は知識があっても会話が苦手なんですね。韓国の学生は物怖じせず会話ができる。ああ、僕もやらなきゃ、と1年生の時点で気がつくとその後4年がんばることができます。機会がないと気が付かないことですね。他にも国際交流や他の大学との交流があり、積極的に参加できるチャンスがたくさんあります。

大学・大学院を卒業・修了した後の就職について教えてください。

リーマン・ショック以降、全国的に就職は厳しい状況のようですが、材料科学総合学科に関しては就職難ということはまったくないですね。たくさんの一流企業から、学校推薦という形で求人が来ています。学校推薦は、企業から学生を「欲しい」と言っていただいているこということです。鉄鋼関係などの伝統のある分野は非常に強いですし、自動車、半導体、医工学もそうですね。あらゆる分野に就職先があると考えて間違いないです。就職活動にもそんなに長い時間はかかりません。

なぜ東北大学の学生が希望されるかというと、先輩がその企業でいい仕事をしているんですよ。会社に貢献している人が、東北大学の材料科学総合学科の卒業生である、それならぜひその後輩を採用したいと言ってくれます。優秀な先輩がたくさん活躍しているというのは本当にありがたいことです。

2011年3月11日に発生した東日本大震災の影響はありますか?

マテリアル開発系の研究棟は被災し、建て替えることになりました。研究室・実験室・講義棟が一緒になった、免震構造の5階建てのビルです。年内に建設が始まり、平成26年には完成予定です。これから入学してくる方は新しいところで研究や勉強ができますから、ぜひ安心してください。震災前よりも、新しく安全な環境です。

福島第一原子力発電所事故の影響について心配な方もいるでしょう。仙台では現在、国内の主要都市および世界の主要都市と比較してもまったく問題ない放射線量です。 東日本大震災に関しての情報、大学で測定した空間放射線量は、大学のホームページにも掲載しています。 海外からの留学生の方々も、こういった情報を見て、以前と同じように東北大学を希望してきています。

平成27年には地下鉄東西線も開通します。青葉山キャンパス、川内キャンパスの地下に駅ができますから、便利に大学生活を送ることができるようになりますよ。

毎年夏に開催されるオープンキャンパスの特徴、みどころを教えてください。

オープンキャンパスは、全国の国立大学の中でも、東北大学の材料科学総合学科が独自に始めました。「材料」という研究分野がわかりづらいので、アピールする必要を感じたからです。見学に来てくれた高校生・一般市民に研究をわかりやすく説明する努力をしたんですね。その地道な努力が評価されて、今では東北大学といえば工学部、工学部なら材料、と高校の先生に言ってもらえるまでになりました。

材料科学総合学科では、学生がコンパニオン(ガイド役)を勤めて、高校生に希望を聞き、コースを選んで案内するというシステムにしています。それが非常に好評です。興味深い実験を体験できるコーナーもあります。ここ数年の取り組みとして、卒業生の就職する会社のパネル展示も行なっています。どういう会社に就職できるのか、どういうことをやっている会社なのかが、わかります。材料分野では世界的に優れた会社といえども、名前は一般的に知られていないところが多いんですね。パネル展示を通じて、このような普段なかなか得られない情報もわかります。

「教授になんでも聞いてみよう」という、直接教授の先生に質問するコーナーもあります。研究内容、就職、中には材料についての専門的な質問をする高校生もいますよ。 ぜひオープンキャンパスに来て、見て、体験して、材料の世界を味わってもらいたいですね。

高校生の皆さんには、大学に進学する前にどんな勉強をしてきて欲しいですか?

まずは、入学試験に合格するための努力をしてください。工学部は理系ですが、日本語の表現力もおろそかにしてはならないと思います。言葉で表現するという能力は生きていく上でも重要ですからね。

大学に入ってからは、社会に出てから活躍するためには座学による知識だけでは不十分であると、わかると思います。工学は、人の役に立つことが重要です。材料を作るのも人間ですし、使うのも人間です。人間のことをよく知らないと、いいものを作れないですね。サークル活動やボランティアを通じて、人間について学ぶ機会があると良いと思います。

最近の学生を見ていると、もっと本を読んできて欲しいと思います。中でも、いわゆる、古典といわれるもの──文学にしろ、他の分野にしろ、一生涯通じての教養となる本を読むことが、必要だと思いますね。古典は長い年月を経て生き残っているんですから、それだけ価値があります。

旅行をしていろいろな人と接する体験も重要でしょうね。周りの人と話すことで刺激を受けて、自分の考えがまとまることもあります。本を読むというのも1つの刺激です。目の前に人はいませんが、本の著者がいるし登場人物がいる。その人たちと会話をしながら、何かが変わっていくわけです。それが「人を知る」ということにつながりますね。工学は人類が幸福になるための学問。いかに自然現象を理解するかが究極の目標ではなく、理解した上で、それをいかに人類の幸福に結びつけるか。それを忘れないようにして勉強していただきたいと思います。

(平成24年6月取材)