優れた機械的特性を付加するレーザー積層造形法。
多くの可能性を、新しい生体材料の開発につなげていく。


“出前授業”やアウトリーチ活動※1を通して、高校生や一般の方々に研究内容をご説明する機会がありますが、「どんな形で、社会や暮らしに役立つのですか?」「いつ実用化されるのですか?」というご質問をしばしば受けます。私たちの取り組みに興味と期待を寄せてくださっていることに対し、意気に感じる一方で、研究成果が社会実装されるまでには、多くのハードルをクリアしていかなければならないことをご理解いただく必要もあると感じています。

そんな中、新しい価値創造を提供するほどの新技術は、やはり大きなインパクトを持って社会に迎えられます。昨年(2013年)夏、家電販売店の店先に並んだ個人向けの3Dプリンターもそのひとつでしょう。これはコンピュータ上で作った三次元データに基づき、断面形状を一層ずつ重ねていく(積層する)ことで立体物を作成するものです(3Dプリンターには、いくつかの仕組みがある)。以前から業務用として使用されていましたが、本体の低コスト化や小型化、ソフトウエアの充実、3Dスキャナの低価格化が普及に弾みをつけているようです。

前述の3Dプリンターは材料として樹脂を用いますが、金属にも応用され、新しい成形技術(以下、三次元積層造形法)として盛んに研究開発が行われています。金属に形を与える方法のひとつとして、鋳造(ちゅうぞう)があり、鋳物(いもの)と呼ばれる製品は、すべてこの技術でつくられます。鋳造では、溶かした金属を流し込む鋳型が必要ですが、三次元積層造形法ではそれらが不要になりますし、製作者のスキルに頼らず自動的な加工成形が可能になります。また、金属素材から不要な部分を削る金属加工では、切削工具が届かない狭く細かな箇所など、複雑な形状に対応できないケースもあります。その点、立体物の断層を下から重ねていく三次元積層造形法では自由なデザインが可能となります。こうした特徴から、患者さん一人ひとりの形態や症状に合わせたテーラーメイドの医療用デバイスを作製する技術として大きな注目を集めています。

同じ材料を使用していても、鋳造と三次元積層造形法では製造プロセスがまったく異なります。得られる性質や特性にどんな違いがみられるのでしょう。私たちは、生体材料(人工関節や人工歯根など)に用いられているコバルトクロム合金(コバルトを主成分とし、クロム、モリブデンなどを混ぜた合金)をレーザー積層造形法(selective laser melting、SLM)※2に適用し、その組織と機械的性質の評価に取り組みました。光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡で断面組織を観察した結果、鋳造法によってつくられる合金と大きく異なることを見出しました。また、機械的特性においても、強度および伸びは鋳造体を大きく上回り、歯科用補綴(ほてつ)物のISO規格をクリアすることがわかりました。さらに、耐食性も向上(金属溶出が抑制)していることも明らかとなったのです。これは同じ材料にもかかわらず、レーザー積層造形法によって、鋳造法では得られない特異な性質が出現していることになり、非常に興味深い結果が導き出されました。

(図/写真1)歯科用の金属フレーム

(図/写真1)歯科用の金属フレーム。上が歯科鋳造法、下がレーザー積層造形法でつくったもの。一見しただけでは、違いはわからない。野村先生は“科学の目”で差異を見出そうとしている。

積層造形法は、デザインに対する自由度が高いという大きな特長がありますが、機能性の面でも多くの可能性を持つことが明確になりました。現在は既存の材料を使用していますが、今後は、本プロセスにさらに適合・特化した材料開発(金属やセラミックス粉末)が鍵となることでしょう。テーラーメイド型の医療用デバイスがさらに進化していけば、身体への負担減やクォリティ・オブ・ライフ(quality of life、生活の質)の向上にもつながっていきますね。生体材料の未来を視野に入れつつ、材料探索を続けていきます。

※1
アウトリーチ活動:広く一般の方々の研究活動・科学技術に対する興味や関心を高め、かつ多様なニーズを共有するため、研究者自身が市民に対して行う双方向的なコミュニケーション活動を指す。
※2
レーザー積層造形法:三次元データを基に、敷き詰められた金属粉末にレーザーを照射し、その熱エネルギーにより粉末を溶解・凝固させて造形体の一層分をつくる。さらに金属粉末を積層させ、レーザーを当てるといったプロセスを繰り返すことで金属造形物を得る方法。
取材風景
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