世界の第一線で活躍する研究者との交流が、
モチベーションを高める原動力に。


今では在外研究や国際会議に参加するために、しばしば機上の人となりますが、私が生まれて初めて海外に赴いたのは22歳の時。修士課程1年ながら国際会議で発表する機会を得、単身、アメリカに向かいました。もちろん何もかも初めてのことで不安や戸惑いを道連れにした旅でしたが、研究の成果には自分なりに自信がありましたし、英語の発表も精一杯の準備をして、まさに意気揚々と乗り込んだわけです。海外を舞台に活躍したいというのは高校の頃からの目標でもあり、それに一歩近づけたという高揚感もありました。

研究内容には一定のレスポンスと評価をいただいたものの、やはり言葉の壁は厚く、研究者たちが交わす会話の輪の中にも入れませんでした。コミュニケーション手段としての語学の必要性を強く感じさせられる体験でした。帰国後、英語力強化に取り組んだのは言うまでもありません。単語を片っ端から覚えたり、膨大な量のテキストを読み下したりはもちろんのこと、海外ドラマやTEDを観て言い回しや発音を真似したり、シャドーイングやディクテーション(書き取り)をしたり…とあらゆることを試しました。大学受験のときでも、これほどは勉強しなかったと思えるほどです(笑)。最近では、人工知能を用いたニューラル機械翻訳技術が目覚ましい勢いで進化しています。それは工学的な研究開発成果の一つでもあるのですが、やはり当意即妙でナチュラルな会話という点では、自動翻訳デバイスよりも自分の口から発せられる言葉に勝るものはないように思います。

こうして研究と並行して英語の鍛錬を続け、少しずつ手ごたえを感じ始めた2010年、またとないチャンスをいただきました。それはポール・ジョンソン博士(ロスアラモス国立研究所※1)が主宰する国際会議への参加でした。これは通常の国際会議とは趣を大きく異にする少数精鋭のカンファレンスです。最先端研究で際立った成果を上げている研究者30~40名が集い、一人あたり40分という潤沢なプレゼンテーションの時間が与えられ、参加者で議論を深めていく独特のスタイルが貫かれています。

トップ・ジャーナル(権威ある科学誌)で名前を見知った研究者たちと実際に交流をし、研究コミュニティの一員として迎えてもらったことは、私のその後の研究を大きく飛躍させる源泉となりました。この会議を結節点として、国際的なネットワークや共同研究の端緒が開かれましたし、ロスアラモス国立研究所にも幾度となく招へいされ、異なる研究文化に触れることができました。何よりも研究面だけではなく、高い教養を備え、人間的にも洗練された人びととの出会いは、大きな刺激となっています。また、彼らの広く豊かな知識と見識に触発され、中学や高校で習ったはずの歴史、地理、美術などを改めて勉強する機会も増えました。同じ内容のはずなのに、昔より楽しく学べているのが不思議なところです。

私の研究は一言でいえば「見えないものを見る/見えるようにする」計測技術です。社会インフラを始めとする構造物、特に過酷な環境にさらされる発電施設などの安全性や信頼性の計測・評価、さらに材料の出荷前検査などは、そのまま社会の安全・安心につながっています。また、最近では高度経済成長期(1954~1973年頃)に建設されたコンクリート建造物(特に橋梁など)の耐久性や安全性に対する懸念の声があります。そのために構造物を壊さずに(非破壊)、内部を診断する方法や技術に対するニーズが高まっています。私は、超音波を使ってこれまで計測が難しいとされた欠陥、特に材料の強度を大きく低下させてしまう「き裂」を高精度に計測することを目指しています。後編で少し詳しくお話をします。

(図/写真1)「ロスアラモス国立研究所の研究者たちは、平日朝7時半から夕方5時過ぎまで集中して研究し、それ以外は家族との時間や趣味にしっかり時間を使っており、トレイルランニング、マウンテンバイク、バスケットボールなど、スポーツを趣味にしている研究者もたくさんいます。写真は、ロスアラモスのメンバーと標高2600メートルの山にハイキングに行ったときのもの。中央奥がポール・ジョンソン博士ご夫妻です」。手前、ライムグリーンの長袖Tシャツを着ているのが小原先生。

(図/写真1)「ロスアラモス国立研究所の研究者たちは、平日朝7時半から夕方5時過ぎまで集中して研究し、それ以外は家族との時間や趣味にしっかり時間を使っており、トレイルランニング、マウンテンバイク、バスケットボールなど、スポーツを趣味にしている研究者もたくさんいます。写真は、ロスアラモスのメンバーと標高2600メートルの山にハイキングに行ったときのもの。中央奥がポール・ジョンソン博士ご夫妻です」。手前、ライムグリーンの長袖Tシャツを着ているのが小原先生。

※1
ロスアラモス国立研究所:1943(昭和18)年に創設されたアメリカの国立研究機関。ロッキー山脈を望むニューメキシコ州の広大な敷地(約110平方キロメートル)に2100棟もの施設が立ち並び、科学者・エンジニア約2500名を含む1万人もの所員が勤務している。米国の軍事や機密研究の中核であるが、広範な分野の先端科学技術を扱う総合研究所でもある。国内外の研究機関との共同研究も盛んであり、多くの外国人研究者を受け入れている。米国の頭脳が集まる名実ともに世界最高の研究機関。
取材風景
取材風景
取材風景
取材風景
取材風景
取材風景
ページの先頭へ