原子レベルでの構造制御技術によって、高性能な燃料電池電極触媒のナノ構造を見出します。

Fuel Cell

 固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell; PEFC)は低温作動・小型化が可能という特徴から、自動車の動力源としての利用に適しています。 最近、トヨタ自動車から世界に先駆け燃料電池自動車(Fuel Cel Vehicle; FCV)の国内市場導入が開始され、また日産自動車、本田技研工業からも2015年以降発売される予定となっています。燃料電池は環境問題、資源問題の両面から重要な工業技術であるのですが、その一般普及化には乗り越えるべき課題がいくつかあります。 その中の一つが燃料電池の心臓部である”触媒”です。 和田山研究室ではこの触媒、特に白金および白金合金触媒について、超高真空装置により用いて作製した原子レベルで構造制御されたモデル触媒の触媒特性評価を通じ、燃料電池自動車の普及化を促進する新規な触媒材料ナノ構造の設計を研究課題としています。

Fuel Cell
  •  燃料電池はアノード(負極)での水素酸化反応(HOR)、カソード(正極)での酸素還元反応(ORR)によって発電されます。PEFCの使用温度は80度付近であるため、これらの化学反応を円滑に進行させるために高い触媒特性を持つ白金が大量に使用されます。特に、カソードでのORRは燃料電池全体反応の律速段階であるため、アノードに対し多くの白金を必要としています。 しかしながら、白金は希少かつ高価な金属であるため、燃料電池車の低コスト化には白金使用量の大幅な削減が必須です。
     近年、白金使用量削減のために様々な研究開発がされていますが、その中でも有力なものが白金触媒の合金化やコアシェル化です。白金に対し比較的安価なニッケルやコバルトなどの卑金属との合金化、もしくはパラジウムなどの異種金属をコア部に使用することで白金の使用量を大幅に削減することができます。 また、合金化により単純にPt量を減らせるだけでなく、異種金属からの電子的・幾何学的影響により白金の触媒特性が向上することが分かっています。


  •  私たちは燃料電池の電極触媒について、”表面科学”の立場から実用に適した触媒の表面構造を探索しています。当研究室の研究アプローチは、超高真空(UHV)中で分子線エピタキシ(MBE)法を用いて作製した、よく規定された表面を有するPt基合金モデル単結晶触媒を用いることです。 これまで様々な合金系、コアシェル系についてモデル触媒を作製し、燃料電池電極触媒の高活性化、高耐久化を促進する様々な重要な知見を得ています[1-4]。


  • [1] Todoroki, N., Asakimori, Y., Wadayama, T. Phys. Chem. Phys. Chem., 15 (2013) 17771.
  • [2] Iijima, Y., Takayuki, T., Takahashi, Y., Bando, Y., Todoroki, N., Wadayama, T. J. Electrochem. Soc., 160 (2013) F898.
  • [3] Yamada, Y., Miyamoto, K., Hayashi, T., Iijima, Y., Todoroki, N., Wadayama, T. Surf. Sci., 607 (2013) 54.
  • [4] Wadayama, T., Todoroki, N., Yamada, Y., Sugawara, T., Miyamoto, K., Iijama, Y., Electrochem. Commun., 12 (2010) 1112.