会長挨拶

藤野伸司

この度、金窓会会長を仰せつかった昭和54年金属工学科卒業の藤野と申します。どうぞよろしくお願い致します。

私が卒業したときの金窓会会長は今井勇之進先生。卒業生へのはなむけの言葉は「タダ酒を飲むな」でした。他の大学でも卒業生に同じ言葉を贈っている先生がいらっしゃることを後で知りました。2年後大学院修士課程を経て、当時の新日鉄(現新日鉄住金)に入社。約1週間の本社集合研修、さらには製鉄所での3交代現場研修の期間「タダ酒」は延々と続きます。同期入社の中にはこんな「タダ酒」ばかり飲んで良いのだろうかとこぼすものもいます。しかし先輩社員から、「タダ酒」は今のうち、会社はしっかり元を取るから心配するなと言われます。研修後職場に配属され、いよいよ「タダ酒」の大きなツケを払うことになります。

製鉄所では独身寮に入寮、通勤は車が便利です。ということで、職場配属後まず自動車を購入します。新入社員には手元のキャッシュはなく、ローンを組みます。独身寮は昼の弁当を含め三食付き、食事には困りません。寮の売店や近所の飲み屋もツケをすることができ、ここから「ツケ酒」が始まります。給料日には、車のローンは天引きされ、売店と飲み屋のツケを払うと手元にはわずかなキャッシュしか残りません。「ツケ酒」の日々は、自転車操業の日々でした。近所の飲み屋には、入社同期、先輩、後輩と職場の異なる社員が集います。そこはコミュニケーションの場、数多くの情報を入手することができます。「ツケ酒」で、お金では買うことのできない貴重な時間を過ごすことができました。

「タダ酒を飲むな」の言葉には、過剰な接待を受けてはならないとか、自分の稼ぎに応じた酒を飲めという、意味が込められています。言い換えれば人間、己の身の丈にあった生活を送ることが肝心ということでしょうか。入社後40年近く経ち、今は「タダ酒」を新入社員に振舞う立場になり、「タダより高いものはない」の教訓を教えています。「タダ酒」、「ツケ酒」もひとつの社会人教育の過程と考えればよいと思います。

我が金窓会は、年1回の総会と懇親会で毎年100名の参加者を目指しています。残念なことに例年は70程度の規模です。大学側、企業側も幅広い年齢層が集うせっかくの機会です。卒業年次の同窓会や、異業種交流など同窓生のコミュニケーションの場に活用いただければ、当方としては幸いです。「タダ酒」でもなく、「ツケ酒」でもない金窓会での「ツドイ酒」を継続していきたいと存じます。

平成30年7月吉日
金窓会会長
藤野 伸司(昭和54年金工卒)