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Fe-Mn-Al合金におけるα→γ’マルテンサイト変態

鉄合金のマルテンサイト変態は、通常、γ相(FCC構造、オーステナイト)からα’相(BCCまたはBCT構造)やε相(HCP構造)に変態します。しかし、Fe-Mn-Al-Ni合金はα相(BCC構造、フェライト)がγ’相(FCC構造)にマルテンサイト変態します。このような変態が生じることは、α相のGibbsエネルギーに対する磁性の寄与が合金元素で弱められることで説明できます(図1)。詳細は文献[1-3]を参照ください。

Fe-Mn-Al合金におけるα→γ’マルテンサイト変態
図1. (a)Fe, (b) Fe-20Mn-10Al, (c) Fe-36Mn-15Alにおけるエントロピー変化とGibbsエネルギー[1, 2]。磁性の寄与を考慮した場合と考慮しない場合をCALPHAD法で計算した。

Fe-Mn-Al-Ni合金におけるナノ析出

Fe-Mn-Al合金にNiを添加すると10nm程度のβ相(B2構造、NiAl)が析出し(図2)、α→γ’マルテンサイト変態の様式が非熱弾性型から熱弾性型に変化します[4]。このとき、マルテンサイト変態が温度や応力に対して可逆的になり、これに伴い超弾性が得られるようになります。

Fe-Mn-Al-Ni合金におけるナノ析出
図2. Fe-34Mn-15Al-7.5Ni合金のHAADF-STEM像[2, 4]。マルテンサイト相中に10nm程度のβ相粒子が析出している。左上の写真は母相に逆変態させたときの像で、整合であると考えられる。

Fe-Mn-Al-Ni合金の超弾性とその温度依存性

Fe-34Mn-15Al-7.5Ni合金(200℃24時間時効材)の各温度での引張試験による超弾性の結果を図3(a)に示します[1, 2]。内挿図のTi-Ni実用合金は室温では良好な超弾性を示しているものの、-50℃や150℃では明確な超弾性は得られません。一方、Fe-Mn-Al-Ni合金はいずれの温度でも超弾性を示しています。このことは、マルテンサイト変態誘起臨界応力の温度依存性が小さいことにより得られています。図3(b)は、多結晶超弾性合金の変態誘起臨界応力の温度依存性をまとめましたものです[1, 2]。Fe-Mn-Al-Ni合金の変態誘起臨界応力の温度依存性は約0.5MPa/℃であり、Ti-Ni合金の5.7MPa/℃に比べて一桁小さいことがわかります。変態誘起臨界応力が高くなると、超弾性に必要なマルテンサイト変態が生じる代わりに転位などが導入され、超弾性が得られなくなります。Fe-Mn-Al-Ni合金は温度依存性が小さいため、広い温度範囲で超弾性を得ることが可能になっています。

Fe-Mn-Al-Ni合金の超弾性とその温度依存性
図3 (a) Fe-34Mn-15Al-7.5Ni合金の各温度での超弾性。内挿図はTi-Ni合金の結果。(b)多結晶超弾性合金におけるマルテンサイト変態誘起臨界応力の温度依存性。Fe-Mn-Al-Niの温度依存性は約0.5MPa/℃と極めて小さい。Ti-Ni実用合金は5.7MPa/℃。

[1] Omori T., Ando K., Okano M., Xu X., Tanaka Y., Ohnuma I., Kainuma R., Ishida K., Science 333(6038) (2011) 68-71.
[2] 大森 俊洋, 貝沼 亮介, まてりあ 54(8) (2015) 398-404.
[3] Omori T., Kainuma R., Shape Memory and Superelasticity 3(4) (2017) 322-334.
[4] Omori T., Nagasako M., Okano M., Endo K., Kainuma R., Applied Physics Letters 101(23) (2012) 231907.