水素社会を支える材料 -触媒-

 私たちの社会は、石炭や石油などの化石燃料を燃やして熱エネルギーを取り出し、それを利用して文明を発展させてきました。しかし、化石燃料が燃えると温室効果ガスである二酸化炭素を大量に排出するので、排出量を低減する努力が盛んに議論されています。排出量低減を一歩進め、二酸化炭素を全く排出しない、新しいエネルギー源が求められています。その中で、水素をエネルギーとして利用する「水素社会」が考えられています。水素は水を電気分解して作ることができ、使用しても出てくるのは水だけなので、環境に優しいエネルギー源と言えます。

 水素が持つ化学エネルギーを電気エネルギーとして取り出す装置が燃料電池(写真1)です。自動車用の動力源としての普及が期待されています。燃料電池では燃料である水素と大気中の酸素の化学反応により発電します。この化学反応を促進するための触媒として白金が使われています。白金は数ある金属の中でも燃料電池の化学反応には最も効果があります。残念なことに白金は1グラム当たり数千円もする高価な金属で、これまでの世界の歴史で採掘された量はおよそ25mプール1杯分ぐらいしかありません。このため、水素を新しいエネルギー源として普及させるには、白金の利用量を大幅に削減する必要があります。

 現在、使用する白金の量を極力少なくした、もしくは白金を一切使わない燃料電池触媒の開発が世界中で進められています。触媒材料の開発には、ナノメートル(10億分の1メートル)から原子のスケールで触媒の構造をコントロールすることが鍵となります。たとえば、高い触媒特性を示す白金コバルト合金ナノ粒子の場合、ナノ粒子表面の白金原子の並び方(原子密度)に応じて特性が6倍近くも変化します(写真2)。したがって、極めて高度な材料作製・解析技術が触媒材料研究には必要です。

 このように、地球のため、そしてそこに生活する私たちのため、材料科学のチカラを結集して、環境に優しいエネルギーシステムの実現を目指した研究が私たち「材料科学総合学科」では行われています。

自動車用燃料電池と白金ナノ粒子触媒(写真1)
白金コバルト合金ナノ粒子の触媒特性(写真2)

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