ストイキオメトリ(化学量論的組成)ってなに?

私たちの食生活に欠かせない食塩は化学では塩化ナトリウムと呼ばれ、化学式でNaClと表します。この化学式は、「食塩の結晶中にはナトリウム原子(Na)と塩素原子(Cl)が1:1の割合で存在している」ということを表しています。「ストイキオメトリ」とはある化合物があるとき、その化合物を構成している原子数の比(組成)が化学式どおりに存在している図1(a)に示すような状態のことをいいます。

携帯電話や信号機、家電製品のディスプレイなど(図2参考)、私たちの身のまわりにある電子および光部品(デバイス)の多くに使われている材料として化合物半導体があります。化合物半導体は、構成する元素ごとにそれぞれ動きやすさが異なる(異なる蒸気圧をもつ)ためにストイキオメトリな状態をとりにくい特徴があります。ストイキオメトリでない材料は内部に図1(b)に示すような欠陥による乱れが多く存在しているために、材料がもつ本来の性質が十分に発揮されず、そのような材料を用いたデバイスは正しく動きません。そのために私たちは化合物半導体をストイキオメトリな状態に作るにあたり、ある工夫が必要です。

図1 により構成される化合物におけるストイキオメトリな状態(a)とストイキオメトリ制御されていない状態(b)

ある工夫とは、動きやすい元素の数を適切に増やすことにより、動きやすい元素が結晶から飛び出すことにより生じる欠陥による乱れを抑えるというものです。実際には、動きやすい元素の蒸気圧を外部から余分にかけることにより、ストイキオメトリを制御します。化合物半導体のひとつであるGaPの場合、P元素が動きやすい(蒸気圧が高い)ので、GaP結晶を作る時はP元素の数を増やす(P元素の蒸気圧を余分に印加)ことにより、ストイキオメトリな状態に近いGaPを作製できます。

図2 発光ダイオードによる光の3原色