金属は何故さびるの?

鉄を希塩酸や希硫酸につけると水素を発生しながら溶けることはご存知ですね。金属の「腐食」と呼ばれる現象です。鉄を淡水や海水に漬けたときに真っ赤にさびるのも腐食です。一方、鉄をアルカリで脱脂する時には腐食は起こりません。このような金属の振舞いを予測するために、溶液の酸化力に相当する電位を縦軸に、pHを横軸にとって化学種の安定存在範囲を示したのが電位-pH図です。発案者の名前をとってBourbaix(プルベイ)図とも呼ばれています。常温における鉄の電位-pH図を図1に示しました。金属Feが安定な領域Aと酸化物が安定な領域Cでは腐食は起こりません。鉄イオン(Fe2+、Fe3+)が安定な領域Bは腐食域です。実際にFeが電子を放出してFe2+イオンになるかどうかは、その電子を受け取る反応があるかどうかにかかっています。図1からFeの場合には、水素イオン(H+)がその働き(酸化)をし、自らは還元されて水素分子(H2)になることが分かります。このように腐食は金属が酸化される反応ですが、必ず還元反応を伴っています。淡水や海水中で鉄がさびるのは、溶けたFe2+イオンが加水分解して水酸化物や酸化物になるからですが、この時の還元反応は水に溶けた酸素(O2)が受け持ちます。なお、図1における2本の破線は水の生成・分解に関わる2つの反応の電位を示しています。その差(約1.2V)は電気分解の理論分解電圧、また水素?酸素燃料電池の理論起電力に相当します。これらの特性値が溶液のpHに依存しないことも簡単に読み取れますね。

図1 Fe-H2O系電位-pH図(Pourbaix図)

わが国における腐食対策費は毎年少なくとも5兆円を超え、これは国民総生産の1%以上に及びます。ただし、このうちの25〜30%は、技術者が腐食に関する正しい知識を持っていれば削減できると言われています。腐食は資源的、経済的な損失だけでなく、時には環境負荷を生み、また危険な事故や災害の引き金にもなります。マテリアル・開発系では電池や腐食の理解に不可欠の電気化学から腐食・防食工学までの系統的な教育を行うと共に、エネルギーや環境問題に関わる材料の腐食・防食の研究を行っています。