最高のものづくりは材料選びから

車が走る原理、ヨットが前に進む原理、ロケット・飛行機が飛ぶ原理を知っていますか?これは専門書等で調べればわかることですが、どうすれば速くなるか?に対する回答はそう簡単ではありません。ここで、それぞれの分野において現時点で最高の技術を駆使して作った、あるいは作ろうとしている乗り物について考えてみます。図1は自動車レースの最高峰F1のレーシングカー、図2は海のF1と呼ばれるアメリカズカップというヨット競技に日本が挑戦した時のヨットです。これらは年々改良されてさらに速くなっています。また、図3は完全再使用型宇宙往還機(スペースプレーン)と呼ばれるもののイメージ図ですが、実現が期待されています。なぜ技術は進歩しているのでしょうか。それには、作っている人たちの大変な努力もありますが、年々優れた材料が開発されているからです。レーシングカーではエンジン・電子部品以外のほとんど全てのパーツがCFRP(炭素繊維強化プラスチック)という材料で作られています。CFRPは、アルミより軽く鉄より強い炭素繊維という非常に細い繊維を束ね、図4のように織り込み、プラスチックで固めたもので、非常に軽くて強い先端複合材料です。また、ヨットのスピードを決めるのは船体とマスト(帆柱)の設計ですが、そのどちらにもCFRPが用いられています。さらに、宇宙輸送システムを再利用するには、軽量化が必要であり、燃料である液体水素(−253℃)/液体酸素(−183℃)が漏れたりしないようなCFRP製の燃料タンクが求められています。

図1 レーシングカー
図2 レーシングヨット

これらの他、将来のエネルギー供給が期待されている核融合炉でもこのような複合材料が重要な役割を果たすと思われます。また、最近は、材料の破壊が原因となる機械・構造物の事故を防ぐため、生命体のように破壊部分を自己修復する機能を材料に持たせようとする試みが行われています。このように、最先端技術の成功の鍵を握るのは材料です。材料の研究・開発は縁の下の力持ち的な存在と思われがちですが、実は非常に重要で最先端のものづくりに直結する研究分野です。私たちは、完全再使用型宇宙輸送システムの燃料タンク(−183℃、−253℃)や核融合用超電導マグネット [液体ヘリウム温度(−269℃)] 等で使われる複合材料の強さや壊れにくさを極低温環境を作り出せる試験装置や高度なコンピュータシミュレーション技術を用いて詳しく調べ、夢の実現に貢献しています。また、自己修復機能を持った複合材料を設計・開発・評価するための研究を行い、より安全な社会を築くことも目指しています。

図3 スペースプレーン © JAXA
図4 FRPの織り構造(朱子織)