磁歪ってなに?

ある種の磁性体は、磁場(磁界)に引き寄せられる強磁性という性質を示し、我々の日常生活の広い分野で利用されています。さらに磁性体には磁場印加により長さが変化する「磁歪」と呼ばれる性質があります。多くの磁性体では、磁歪の大きさは非常に小さく、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)などの強磁性体では、元の形状に対して約0.01〜0.0001%(1万分の1から100万分の1)の割合で変化します。しかし、最近では、Feと希土類元素(Tb、Dy等)を混ぜ合わせた材料が0.1%程度の磁歪量を示すことが発見され、巨大磁歪材料として実用されています。磁歪材料は振動子として魚群探知機や超音波発生器などに用いられています。また、電気信号が電磁石などを通じ磁場に変換されることで、磁歪を外部から非接触制御することも可能であり、機械やロボットの駆動部にも応用が期待されます。

なぜ磁場印加によって磁性体は歪むのでしょうか。一般の金属中では、原子核(+)の周りを電子(−)が円運動し、電気的な力を作用させ結晶を形成しています。強磁性体中では、電子の自転(スピン)により磁場が発生しており、円軌道運動によって生じる磁場と作用して原子サイズでNS極を持つ微小磁石を形成しています。このため電子の円運動の軌道はスピンを反映して変化します。電子と原子核の間では電気的な力が作用しているため、軌道の変化は原子核の位置変化を生じ、微小な歪みが発生します。磁場印加により原子サイズの微小磁石のNS極が揃うため歪みも結晶全体で同方向に揃い形状が変化します。

一方、磁歪の逆の効果、すなわち、磁性体に歪みを与えることで磁性体の磁場に対する応答が変化する現象はビラリ効果と呼ばれ、応力センサなどに応用されています。最近の身近な例としては、この効果を利用した電動アシスト自転車の踏力センサが挙げられます。上で述べた磁歪現象は長さの変化ですが、体積が顕著に変化する磁歪現象もあります。また、最近では、磁性を持つ形状記憶合金において、双晶磁歪と呼ばれる磁歪現象が発見されました。この磁歪の大きさは数%にも及び、新規の磁歪現象として注目されています。