東北大学 工学部
材料科学総合学科

Department of Materials
Science and Engineering

東北大学工学部材料科学総合学科

Department of Materials Science and Engineering

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生活の質向上に寄与する「形状記憶合金」を作り出す

混合させたものの比率、さらには温度によって物質がどのような状態になるか、を表したものを「状態図」といいます。この「状態図」がわれらが貝沼・大森・許研究室の研究のコアです。なぜなら、「状態図」があればこそ、材料の設計ができるからです。実験で得られたデータを基に、実用材料までつなげるべく研究を行うわけですが、その一つに形状記憶合金があります。社会で活用され、人々の生活をよりよく豊かにできる形状記憶合金を求め、私たちは毎日、「状態図」とにらめっこをしています。

発見は偶然のほうが多いんです。
副産物の性質を見るのも楽しい。

東北大学大学院工学研究科 金属フロンティア工学専攻 貝沼・大森・許研究室 教授 大森 俊洋

形状記憶合金の研究を主にやっていますが、応用はいろいろなものが考えられます。われわれが開発した形状記憶合金で製品化に至っている物として巻き爪矯正器具などがあります。

今、メインで開発を進めているのは建築・土木材料です。どんな機能を期待され、建築・土木材料として、形状記憶合金の研究が進んでいるかというと制震性になります。地震などで揺れても躯体を元に戻す機能を形状記憶合金に求めているというわけです。現在、私たちは銅・アルミ・マンガンを組み合わせた銅合金で実用化を期待できる状況にたどり着きました。銅合金は加工性や切削性が高く、既存の形状記憶合金に比べて汎用性が高い点でも優位性があります。

研究はトライ・アンド・エラーの連続です。私たちは「状態図」を使って、当然、ある目的を達成するために実験しますが、その結果は必ずしも思ったとおりにはなりません。でも、発見はどちらかというと偶然に出てくることが多いんです。実験をすると、いろんな副産物的な発見が出てくることがあり、思いもしない性質を目の当たりにすることがまれに起こります。そうしたところも研究の魅力です。

基礎研究に欠かせない熱処理。200℃から1400℃で試料を熱処理する。

真空封入・熱処理炉。試料を入れた石英ガラス管を真空にし、熱処理を行う炉です。針金で吊るして炉に入れます。欲しい温度は炉の中心部にしかないのでしっかり中心部に固定します。

左の写真の下側に並んでいるものが熱処理炉の本体です。200℃から1400℃までの炉があります。それぞれの炉の上に見えるのは試料の名前や、誰が実験しているのかが分かるようにするためのタグです。上の表示版では炉の温度など状態を示しています。右上の写真は試料を石英ガラス管に封入する作業の一コマになります。長い石英ガラス管を欲しいサイズにバーナーで焼き切り、その中に試料を入れ、封入します。実際に試料を入れた石英ガラス管の様子が右下の写真です。

赤いチョークのように見えるのが実際に熱処理されている試料です。

想像のつかない不思議な現象が研究意欲を駆り立ててくれます。

東北大学大学院工学研究科 金属フロンティア工学専攻 貝沼・大森・許研究室 准教授 許 皛

成分比が変わると一気に特性が変わる、というのが私たちがやっている研究の前提であり、肝になります。物理特性の調査をして何が起きているかをわれわれは解明していくのです。0.1パーセント成分比を変えたら、いきなり磁石にくっつくようになったり、逆に全くくっつかなくなったり、ということが起きる世界です。また、温度で材料の状態が変わることを「相変態」といいますが、この変化を利用しているのが形状記憶合金になります。不思議な現象が私たちの研究意欲を駆り立て、それを解明したいと没頭させるエンジンになります。何をするにも材料がないと物はつくれないというのは真理です。人々の生活をより豊かにする材料の開発につなげるべく、日々、研究に勤しんでいます。

電子線を使って、試料の組織を細かに確認します。

透過型電子顕微鏡。作った試料をより詳細に見るために使います。原子の粒も確認できます。

光ではなく、電子線を使うともっと細かく物質が見えます。基礎知識は学部から学びますので、どんどん経験するごとに、見えるものがどういう状態になのかも分かってきます。電子顕微鏡の種類は走査型、透過型の二種類があります。走査型電子顕微鏡は試料の表面に電子線を走査させ、光学顕微鏡より大きく拡大して材料の組織を見ることができます。透過型電子顕微鏡は試料を透過した電子線を使い、走査型電子顕微鏡よりさらに拡大したり、どんな結晶構造をしているかを確認したり、試料の状態を知ることができます。試料を透過した電子線が蛍光板に当たると写真のように緑色に光るので、私たちはこの部分を覗き込んで観察します。

最低温度はマイナス270℃。どの温度で「相変態」が起きるのかを実験します。

物性特性測定装置。ヘリウムガスをコンプレッサーで圧縮して気体から液体にするときにピシューピシューという音がします。

温度帯は、上は130℃ほどから、下はマイナス270℃くらいまでの状況をつくり出せます。冷却に使うのは液体ヘリウムです。気体のヘリウムを圧縮して液体にして利用するのですが、その理由は、ヘリウムが液体になる温度が約マイナス270℃だからです。こうしてマイナス270℃の環境をつくります。また、一般的な磁石の磁束密度は1テスラ程度ですが、この装置では最大9テスラまで高められ、高い磁場の状態で物理特性をこの装置で検証することができます。どの温度で相変態が起きるのか、磁場の変化で試料の物性値はどう変わるのかをテストします。