われわれの研究室のテーマは大きく、「製鉄プロセスのゼロカーボン化」、「金属資源の高度有効利用」、「多孔質材料の製造と利用方法開発」の三つに分けることができます。まず、「製鉄プロセスのゼロカーボン化」ですが、現状の鉄鋼材料の製造プロセスでは原料となる鉄鉱石を還元して鉄にするために、石炭を蒸し焼きにしたコークスが使われており、CO2が大量に発生します。このCO2排出をゼロ(ゼロカーボン化)にするために、二つの取り組みをしています。一つは水素を鉄鉱石の還元材として使う方法です。もう一つは、鉄を作った後にできたCO2を回収し、そこから取り出した炭素を固体化し、また、製造プロセスで利用するというアプローチです。どちらがより現実的かはこれから分かってくることですが、ゼロカーボン化の実現に向けて最適な方策を探っています。
「金属資源の高度有効利用」で現在取り組んでいるメインテーマは鉄鉱石からの事前脱リンです。鉄鋼製品にとってリンは不純物であり、品質を大きく落とす元素です。しかし、これから利用が考えられている鉄鉱石資源にはリン濃度の高いものが多く、効率的にリンを除去する技術の開発が求められています。鉄鋼業界では、鉄鉱石から鉄とリンの両方を取り出すプロセスはこれまで考えられていませんでしたが、銅や亜鉛などの非鉄金属の分野ではそうした発想が当たり前です。非鉄の考え方を鉄鋼に導入することで、この問題が解決に近づくのではと、頭を巡らせているところです。
「多孔質材料の製造と利用方法開発」は繊維状の鉄を発熱材や水素貯留のために利用しようとするものです。われわれが開発したこの繊維状の鉄は、気孔率が95%以上でとても軽く、数マイクロメートルの細さの鉄が紐のようにグニャグニャとした構造を取っています。これを粉末にすると使い捨てカイロの発熱材にも使えるなど、さまざま用途が期待されており、各用途に応じた形状制御方法の検討を進めています。
鉄鋼業界にはさまざまな問題やニーズがあります。例えば、製鉄は数千年の長い歴史がありプロセスは変遷していますが、この200年弱はCO2が大量に排出されてしまう高炉法が採用され続けています。しかし昨今のゼロカーボン化の潮流の中で新たなプロセスが求められており、私たちもは新たな製鉄プロセスを提案できるよう日々、頭をしぼっています。
このように鉄鋼業界の問題、ニーズをわれわれのシーズで解決していくことに研究の大きな醍醐味があります。