東北大学 工学部
材料科学総合学科

Department of Materials
Science and Engineering

東北大学工学部材料科学総合学科

Department of Materials Science and Engineering

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世界に向け、波及効果の大きい基幹材料 “鉄鋼” 製造を考える

鉄鋼材料の製造過程・リサイクルプロセスの高効率化と低環境負荷化を達成し、さらには鉄の新しい有効利用法を開発するための基礎研究を行っています。具体的には、「製鉄プロセスのゼロカーボン化」、「金属資源の高度有効利用」、「多孔質材料の製造と利用方法開発」などをテーマとしています。鉄鋼業界への貢献がわれわれのミッションの一つであるため、産学連携が活発なのも当研究室の大きな特徴です。

鉄鋼業界にポジティブな影響を与える。
鉄鋼業界のニーズを自分たちのシーズで解決する。

東北大学大学院環境科学研究科 先端環境創成学専攻 村上研究室
教授 村上 太一

われわれの研究室のテーマは大きく、「製鉄プロセスのゼロカーボン化」、「金属資源の高度有効利用」、「多孔質材料の製造と利用方法開発」の三つに分けることができます。まず、「製鉄プロセスのゼロカーボン化」ですが、現状の鉄鋼材料の製造プロセスでは原料となる鉄鉱石を還元して鉄にするために、石炭を蒸し焼きにしたコークスが使われており、CO2が大量に発生します。このCO2排出をゼロ(ゼロカーボン化)にするために、二つの取り組みをしています。一つは水素を鉄鉱石の還元材として使う方法です。もう一つは、鉄を作った後にできたCO2を回収し、そこから取り出した炭素を固体化し、また、製造プロセスで利用するというアプローチです。どちらがより現実的かはこれから分かってくることですが、ゼロカーボン化の実現に向けて最適な方策を探っています。

「金属資源の高度有効利用」で現在取り組んでいるメインテーマは鉄鉱石からの事前脱リンです。鉄鋼製品にとってリンは不純物であり、品質を大きく落とす元素です。しかし、これから利用が考えられている鉄鉱石資源にはリン濃度の高いものが多く、効率的にリンを除去する技術の開発が求められています。鉄鋼業界では、鉄鉱石から鉄とリンの両方を取り出すプロセスはこれまで考えられていませんでしたが、銅や亜鉛などの非鉄金属の分野ではそうした発想が当たり前です。非鉄の考え方を鉄鋼に導入することで、この問題が解決に近づくのではと、頭を巡らせているところです。

「多孔質材料の製造と利用方法開発」は繊維状の鉄を発熱材や水素貯留のために利用しようとするものです。われわれが開発したこの繊維状の鉄は、気孔率が95%以上でとても軽く、数マイクロメートルの細さの鉄が紐のようにグニャグニャとした構造を取っています。これを粉末にすると使い捨てカイロの発熱材にも使えるなど、さまざま用途が期待されており、各用途に応じた形状制御方法の検討を進めています。

鉄鋼業界にはさまざまな問題やニーズがあります。例えば、製鉄は数千年の長い歴史がありプロセスは変遷していますが、この200年弱はCO2が大量に排出されてしまう高炉法が採用され続けています。しかし昨今のゼロカーボン化の潮流の中で新たなプロセスが求められており、私たちもは新たな製鉄プロセスを提案できるよう日々、頭をしぼっています。

このように鉄鋼業界の問題、ニーズをわれわれのシーズで解決していくことに研究の大きな醍醐味があります。

1500℃の高温にも耐える雰囲気を制御できる顕微鏡。酸化鉄が鉄に還元される様子のリアルタイム観察。

 

酸化鉄から様々な形の鉄が生成する様子を見ることができます。電気炉と顕微鏡が組み合わさった装置です。

サンプルは内径5ミリのるつぼに入れるので、サンプルの大きさは3ミリ程度で、最大1500倍まで拡大できます。サンプルがどんなスピードで、どんな形で反応していくのか見られます。高温でにょきにょきと鉄が生えてくる様に驚かされます。

頭の中でイメージしていた結果が上手く得られたときも、思った通りの結果が得られず何故だろうと悩んでいるときも、どちらも充実した時間です。

私にはやっぱり、自分の中に、特に鉄に対して「知りたい」、鉄鋼業界を良くしたいという、燃え立つ欲求があって、だから、実験の結果として思った通りのものが出てきたときは、よし!と手応えを得られた喜びに打ち震えます。逆に想定通りではない結果のときに、これはどうなっているのだろうと試行錯誤する時間も、とても愛おしい。簡単にいえば、両方楽しいというわけです。

ゼロカーボン化が全世界的なキーワードとなり、材料を作るためのプロセスをエネルギー消費の観点で根底から変えなければいけない転換期が今です。ですから、私たちの研究室は世の中を変えてみたいという野望・野心のある人に向いています。チャレンジ精神のある方にぜひ来てほしいです。

ちなみに私には、「なりたい自分が漠然としているのであれば、学生の時分に自身の将来を決めてしまう必要はない」という持論があります。進路の結論はある程度先延ばしにしてもいい。まずは選択肢を広く持つためにどうすればいいかを考えればいいと思います。材料は世界を支える分野ですから、実に度量が大きいです。

高温での反応を実際のプロセスに合わせて再現します。

高温X線回折装置。水蒸気を炉内に入れられるのが最大のオリジナリティ。冷却にはお湯を使います。

加熱装置の冷却にお湯を用いることで、装置の内側が結露しない仕組みを作りました。これで装置内の水蒸気の量を実際の高炉環境に近づけています。この装置で見たいのは高温での結晶構造の変化です。鉄鉱石から、最終的に鉄に還元されるまでを追えます。どういう反応が、どういう順番に、何℃で起こるのか。サンプルの組成によって、反応はどう変化するのかということを調べる装置です。温度は約800℃まで上げられます。

大学の研究室では破格の100グラム程度のサンプルを用いた充填層を実現しています。

圧力雰囲気制御還元装置。重さは0.01グラムまで表示できます。還元反応を進めると、ちょっとずつ重量が減っていくことがよく分かります。

サンプルは100グラムぐらい入れられます。通常、大学の実験室では数グラムが限界ですので、この装置では破格の量を扱えるわけです。また、重量の変化もリアルタイムで分かります。ガスの組成を連続的に変えることができるのも特徴で、高い圧力での実験も可能にしました。実際の高炉よりも高い8気圧まで圧力を上げた実績があります。