絹糸から宇宙往還機まで「複合材料」に無限の可能性

成田研究室で扱っているテーマは、ずばり「複合材料」です。二つ以上の材料を組み合わせて、欲しい特性を持たせたものが複合材料になります。軽くて強い材料が欲しいなら、例えば、壊れやすいけどとても軽い材料と、重たいけどとても強い材料の二つを組み合わせて、つくろうということになります。用いる材料に限りはありません。セラミックス、金属、ポリマー、なんでもよいのです。さまざまなチャレンジを試みて、やっぱりうまくいかない、ということはよくあることです。それでも、いかにそれぞれの材料の長所を引き出すか、逆に短所をどうやってなくすかと、突き詰めていくところに私たちの研究の醍醐味があります。

宇宙往還機用複合材料を開発中
炭化ケイ素が未来を切り開く‼

成田研究室で研究を進めている繊維強化炭化ケイ素(SiC)複合材料。宇宙往還機で使われる日はそう遠くない?

近年、世界的に繊維強化炭化ケイ素複合材料に注目が集まっています。炭化ケイ素は炭素とケイ素を1対1の比率で結合させた化合物で、天然にはほとんど存在しません。黒色のセラミックスで、1000℃以上の高温域でも強度低下が少なく、耐摩耗性も高い。この炭化ケイ素の特長をさらに強化するべく、世界中で研究が進められているのが繊維強化炭化ケイ素複合材料です。成田研究室では今、宇宙往還機の機体への応用を目指し、繊維強化炭化ケイ素複合材料を流線型などの複雑形状に成形できる技術を開発中です。

こういうものが欲しいとゴールが設定されて進める研究にやりがいを覚えます。

東北大学大学院環境科学研究科 先端環境創成学専攻
成田研究室 助教 栗田大樹

宇宙往還機用の材料開発の他に、現在私たちが取り組んでいる代表的なものが、ウイルス検出センサーに活用できる複合材料、具体的には振動する磁歪複合材料の研究になります。振動する磁歪材料は何か別の材料がくっつくと共振周波数、いわば振動する周波数が変わるということに最近気づきました。周波数の変化でナノグラムの重さが検出ができれば、一気に実用化に近づきます。新型コロナウイルスが猛威を奮っている今、社会的ニーズも高く、私たちも大いにこの研究に力を注いでいます。もう一つご紹介すると強度の高い絹糸の開発があります。蚕にセルロースナノファイバーを食べさせると、蚕が作り出す糸が実際に丈夫になります。例えばスカーフなどで、強度の問題から実現できなかったデザインも、この絹糸が完成すれば可能になります。こんなものが欲しいという明確なアウトプットがあって研究を進めるのは、材料系の研究室として、成田研究室の異色なところですね。

三次元造形機。繊維強化炭化ケイ素複合材料の実験を行うのに使用しています。

実際に積層させてみた繊維強化炭化ケイ素複合材料です。まず、大きくても長さ5cm程度のものをつくってみて、その特性を調べます。

自分の研究で宇宙往還機製造の実現を後押ししたい。

修士2年 成田研究室 菅野晃歓 

私たちが研究している繊維強化炭化ケイ素複合材料は現在、基礎研究のレベルです。材料を実際に造形して、焼き固めるという作業を繰り返し行っています。そして、できた材料にどういう特性があるかを徹底的に調べます。研究はまだ緒についたばかりで、クリアしなければならないハードルも多いのは確かです。例えば、積層したときの層と層の境界部分の強度をどう保つかというのは、これからまだまだ突き詰めなければなりません。とはいえ現状、宇宙往還機の材料開発として最先端にある感覚はあります。今は実験室スケールでしかありませんが、今後はメーカーなど、もっと大きな組織との共同開発に発展していくはずです。私たちが開発した材料を使ってつくられた宇宙往還機で、多くの皆さんが宇宙旅行に行ける日がそう遠くないうちに来るかもしれません。ワクワクしてお待ちいただければと思います。

上の写真の注射器のような所から、下に材料を吐出します。いわば、ケーキのデコレーションに使われるチョコペンのようなものです。

ボトルに入っているのが実験前のペースト状になっている材料で、渦を巻いたような形をしたのが三次元造形機で造成した後、高温炉で焼結したものです。

実際に実験に使う繊維強化炭化ケイ素複合材料はペースト状になっています。三次元造形機から圧縮空気で吐出させるのですが、力が加わったときは粘度が下がり吐出され、その後、積層するときは圧力がかからないので形を維持できるというわけです。繊維強化炭化ケイ素複合材料は、耐熱性が高く、比較的軽量であることから、宇宙往還機だけでなく核融合炉でも利用できないかと盛んに研究されています。私たちの研究が核融合炉につながる可能性も大いにあります。