「TiO2」の力を人々の健康生活に役立てる

成島・上田研究室は医用材料工学分野の研究室です。簡単にいうと人体に入れて使う金属やセラミックス、いわゆる、バイオマテリアルに関する研究をしています。バイオマテリアルには生体由来の細胞や筋肉もありますが、私たちの対象は人工関節や人工歯根、血管を広げるステントなどに使われる人工材料になります。また、人工関節をより骨とくっつきやすくするといった目的から、材料の表面処理の研究も行っています。このところ表面処理の材料として大いに注力しているのが「TiO2」です。「TiO2」は酸化チタンを表す組成式であり、光触媒活性を示して、抗菌性、抗ウイルス性を発現します。「TiO2」の持つこの力で多くの人々の健康を守るべく、日々、試行錯誤しています。

時流に乗った最新の研究ができることに大きな魅力を感じます。

東北大学大学院工学研究科 材料システム工学専攻 医用材料工学分野 成島・上田研究室 准教授 上田恭介

「TiO2」は、実は日本発の材料なんですね。なので、私たち成島・上田研究室でも「TiO2」をなんとか社会生活を豊かにできるものにつなげたいとの思いが強くなっているのかもしれません(笑)。「TiO2」は光触媒です。光が当たったときにラジカルを発生し、抗菌性や抗ウイルス性を発現させます。この「TiO2」には光触媒活性の高いアナターゼ型と低いルチル型の2つがあります。「TiO2」をつくるのに単なる酸化熱処理をしてしまうと、光触媒活性が高くないルチル型にしかなりません。そこで私たちはアナターゼ型にするために、さまざまな物質を加えたり、プロセスを検討しました。その結果、アナターゼ型に比較的簡単にできる2段階熱酸化法を開発しました1) 。加えて、純粋な「TiO2」は紫外光(紫外線)でしか光触媒活性を示さないところを、さまざまな元素を加えることで、可視光で活性を起こさせることができるようになりました。例えば、チタン製の人工歯根に「TiO2」を何らかの形で活用できれば、懐中電灯等の可視光を口腔内に当てることでさまざまな細菌を死滅できるようになるはずです。そこからさらに研究は深化し、最近では、ウイルスを不活化させる研究まで進んでいます。ドアノブなど不特定多数が触る部分に「TiO2」を利用することでウイルスを不活化し、感染を防ぐことができます。こういった、時流に乗った最新の研究ができることは大きな魅力であり、喜びです。

1) T. Okazumi et al.: “Anatase formation on titanium by two-step thermal oxidation,” J. Mater. Sci., 46 (2010) 2998–3005. https://doi.org/10.1007/s10853-010-5177-x)

「TiO2」が光触媒活性を示しているか、水接触角計で確認します。

水接触角計。1cm四方ほどの試料の上に水滴を垂らし、濡れ特性を確認します。水が球状にならずに広がれば親水性が高いことになります。

試料や注射筒の位置はモニターでも確認しますが、目視も非常に大切です。

水接触角計では、試料の表面に注射筒から水滴を垂らして、それがどう広がるのか、専門用語で言う”濡れ性”を評価します。「TiO2」は光触媒活性を発現すると親水性を示すので、水が広がります。「TiO2」はこの濡れ特性から、抗菌性、抗ウイルス性だけでなく、建物の外壁や車のミラーの汚れを落としてくれる防汚材料としても注目されています。なお、「TiO2」は化粧品などで既に使われており、安全かつ、安定な材料です。

さまざまなガスを使って、”雰囲気づくり”を行います。

雰囲気制御炉は電気炉の一つです。この雰囲気制御炉では石英ガラス反応管の中に試料を入れて熱処理を行います。

 

目的に合わせて炉内のガスの状態を整えることを”雰囲気づくり”と言います。雰囲気制御炉は、充填したガス内で熱処理を行う装置です。利用するガスは、化学反応を起こしにくい安定した気体であるアルゴン、ヘリウムといったものや、試料と反応させるための窒素、水素などがあります。ガスは試料の性質や熱処理の理由によって選びます。石英ガラス反応管の中で実験を行うので、中がすぐに見られるという特長もあります。温度は1000℃程度まで上げることができ、非常に高温になるので実際の実験時はすごく熱いです。

12個の試料を一気に溶かせる大型アーク溶解炉です。

チタンの塊です。長さは5cmほど。これらを数千℃の高温で溶解します。

鋳型にチタンを並べている様子です。チャンバー内は真空状態にした後、不活性ガスであるアルゴンガスを充填してアーク溶解を行います。

溶解室をチャンバーといいます。チャンバーは小部屋といった意味ですね。アークは気体放電現象の一つで、高温のフレームを発生させます。そのアークを飛ばし、熱で材料を溶かすのがアーク溶解です。このアーク溶解炉では、一度に12個の試料を扱えます。チャンバー内を満たすガスはアルゴンです。アーク自体は最高だと3000℃近くになりますが、試料を乗せている銅の鋳型は溶けず、試料だけを溶かすことができます。それは、鋳型の下に水が流れていて、鋳型が冷やされているからです。