「永久磁石」「高周波磁性材料」「スピントロニクス」が研究の三本柱です

私たちの研究室では、「永久磁石」「高周波磁性材料」「スピントロニクス」の三つを大きな研究のテーマに掲げています。モータなどに使われる「永久磁石」、不要電磁波を吸収する「高周波磁性材料」、次世代メモリーとして期待されているMRAM等につながる「スピントロニクス」と、現代社会そしてグリーン社会の実現には欠かすことのできない磁性材料について高性能・高機能化、そして新規材料開発を進めています。

杉本研究室ではグリーン・デジタル社会に強く求められる、高機能・高性能な磁性材料開発を行っています。

東北大学大学院工学研究科 知能デバイス材料学専攻 杉本・手束・松浦研究室
講師 松浦 昌志

私たちは「永久磁石」「高周波磁性材料」「スピントロニクス」を大きなテーマに磁性材料の開発に取り組んでいる研究室です。「永久磁石」では現状、磁力が最も強力なネオジム磁石が広く使われていて、私たちも特性の更なる向上を目指して研究を進めています。また、近年力を入れて開発に取り組んでいるのが、サマリウムという元素を使った永久磁石です。サマリウム系磁石の最大のメリットは高温での特性が優れていることにあります。現状、サマリウムは供給過多の状況にもあり、永久磁石としての利用が促進されれば、希少資源の有効活用にもつながります。そのため、サマリウム鉄系の高性能磁石開発に日々取り組んでおります。

「高周波磁性材料」は最近、IoT機器の普及に伴って強く市場から求められている材料です。5Gや6Gという言葉を聞いたことがあると思いますが、現在の社会では携帯電話や無線LAN、ETCなど様々な無線通信機器が用いられており、更なる高速・大容量通信に向けて電磁波の高周波化が進められております。ところが、それら通信機器の普及により、お互いの電磁波同士が悪影響を及ぼしてしまう、電磁干渉が問題となっています。機器内の電子部品が不要な電磁波によって誤作動を起こしてしまう可能性があるのです。こっちには必要な電磁波があっちでは要らないということが起きている。そこで不要な電磁波だけを吸収してしまう役割を担うのが高周波磁性材料です。電磁波を吸収し、熱に変換することで不要電磁波を吸収するイメージです。

「スピントロニクス」とは、電子の持つ電荷とスピンという性質の両者を利用するエレクトロニクス分野です。このスピンという性質が磁性の根源でもあります。今、私たちの研究室で取り組んでいるのは次世代記憶媒体として大きな期待が寄せられている磁気抵抗メモリ(MRAM)です。MRAMは高速動作ができ、かつ電源を切っても情報は消えません。このMRAMに適した磁性材料の研究、開発も私たちの使命です。

磁気的にどのくらいの強さを持っているかを調べます

超電導マグネットで発生する磁場の中にサンプルを置いて、磁気特性を測定します。

バイブレーティング・サンプル・マグネトメーターを略したものがVSM。日本語では振動試料型磁力計と呼ばれます。この装置は超伝導マグネットで発生させた磁場の中でサンプルを振動させ、磁気特性を測定します。要は、「電磁誘導の法則」を利用しているわけです。作製した材料の磁気特性を調べるうえで不可欠な装置、それがこのVSMです。

サンプルの構造を知るのに大活躍!

電子銃から放出される電子線を電子レンズによって収束して試料に照射し、試料から放出される電子を用いて観察します。

光学顕微鏡では光を用いてサンプルの表面状態を観察しますが、電子顕微鏡では、光よりも波長の短い電子線を用いることでナノメートルスケールの構造を観察できます。さらに電子顕微鏡を用いると、サンプルがどういう組織形態になっているかだけでなく、その場所の組成も調べることができます。どこにどの元素がどのくらいの割合で入っているかを、分かりやすくマッピングしたデータも得られるため、材料開発には欠かせない装置と言えます。

高周波磁性材料は現代、そして今後の社会に必須な材料です。この研究に携われることに大きなやりがいを感じます。

東北大学大学院工学研究科 知能デバイス材料学専攻 杉本・手束・松浦研究室
特任助教 阿加 賽見

私は東北大学の機械系で博士号を取ったのち、杉本諭先生の下で材料系の研究に取り組み始めて2年半になります。機械系はもちろん凄く刺激的でしたが、材料系、特に高周波磁性材料という世界的にニーズの高い研究に携われていることに、とてもやりがいを感じます。高周波磁性材料が求められる背景にはインターネットにつないで使える電子機器(IoT機器)の急速な進化、普及があります。通信を高速化・大容量化するために、周波数は高周波化する傾向にあります。用いる周波数が高周波化すると波長は短くなることもあり、各々の部品が出す電磁波がその側にある、例えばアンテナなどの機器にも影響するということが起こるわけです。電子機器の小型化・高機能化が進んでおり、より一層不要電磁波対策が求められます。そうした現実から、電磁干渉が起きないように不要な電磁波を取り除く役割を担うものとして、高機能な高周波磁性材料の登場が待たれています。私はこの高周波磁性材料について、2022年5月に1本の論文を世に送り出すことができました。スピノーダル分解により微細な二相組織を有する鉄-クロム-コバルト合金を使った高周波磁性材料の研究についてまとめたものです。もともと永久磁石の材料としても知られる鉄-クロム-コバルト合金を電磁波吸収材料に応用したわけですが、これはこれまで世の中で試されたことのない発想でした。杉本先生がもともと温めていたアイデアで、このたび一つの形になり、とてもうれしく思っています。鉄-クロム-コバルト合金はとても伸びしろのある材料と思い、引き続き特性向上に努めています。見通しは明るいと感じています。

高周波帯域における、材料の特性を調べることができます。

サンプルに電磁波を入射し、その反射係数と透過係数を用いて透磁率と誘電率を求め、サンプルの高周波特性を評価します。

VNAとはベクトル・ネットワーク・アナライザーを略したもので、高周波回路網において回路や材料の高周波特性を測定できます。信号源から高周波をサンプルに送り、その透過・反射といった応答から特性を測る装置です。トロイダル状試料のサイズは外形が7 mm、内径が3.04 mmです。これを同軸管に挿入して測定します。測定時の振動なども結果に影響を及ぼしてしまうため、測定は慎重に行う必要があります。もちろん、サンプルは自分たちで作ります。磁性粉末と樹脂を混ぜて、こねて、プレスして、熱処理して、ようやくサンプルになります。