「機能性セラミックス」でエネルギーをよりクリーンに

高村研究室の、研究の大きな目的はエネルギーをよりたくさん、クリーンにつくることです。いわば環境・エネルギー問題に取り組んでいるわけですが、近年、この問題をクリアする鍵を握ると見られている物の一つが燃料電池。その材料として、高村研では「機能性セラミックス」に着目、水素を使って電気をつくる燃料電池や水素をつくる水電解セルの高効率化、高耐久化につながる「機能性セラミックス」を生み出そうと日夜、情熱をぶつけています。

思ったとおりのものはなかなかできません。
研究は宝探しのようです。

東北大学大学院 工学研究科 知能デバイス材料学専攻 高村研究室 助教 石井 暁大

セラミックスとは「非金属、無機固体材料、固体材料のうち、非金属元素からなる材料」と定義づけされています。身近な例ではガラスやお茶碗が挙げられます。セラミックスは耐久性が高いのが大きな魅力で、金属やポリマーでは実現できない温度領域、動作環境領域で使えます。研究を進めるとき、どういうものができそうか、という知見はあるので、実際の実験を行う前にイメージはつきます。ただし、めったにイメージ通りには出てこない。何だか分からない材料ができることがよくあります。でも、そこも面白い。宝探しのようですね。実験でできた試料の”見た目”はとても大事な情報を含んでいます。だんだん、見ただけで物質中の電子の振る舞いが思い描けるようになり、「新しく作った材料はこんな見た目をしているからこういう機能性がありそうだな」と想像を膨らませることもできてきます。世界で誰も手を伸ばしたことがないところに僕らだけが触れている、という感触は実にわくわくします。研究を積み重ねて、最初はそれがどこにつながるか分からなくても、あるとき包括的な理解ができるようになります。それが私たちの研究の醍醐味です。

CO2フリーの、水素エネルギー社会実現へ

燃料電池の高温水蒸気電解セル評価装置。①長い筒は、燃料電池や水電解セルに水素や酸素、水蒸気を供給する部分です。② 六角形の部品とつながっている管は配管を温めるヒーターになります。

性能が想定通りに近いと考えられる、新しくつくった材料で構築した燃料電池や、水蒸気を酸素と水素に分解する水電解セルの性能が、実際にどれぐらいかを調べる装置です。研究の段階としては、かなりアウトプットに近い最後のほうで使われます。試したい燃料電池などを棒状の部品の下の箱に、燃料電池などを設置します。長い筒から燃料電池や水電解セルに水素や酸素、水蒸気が供給されます。燃料電池であれば、先端は1000℃程度まで加熱されます。六角形の部品にはガス管以外にもヒーターや電気配線が接続されています。100℃まで配管を温め、高濃度水蒸気をセルに届けながら電気の流れ方を測定します。供給する水素や空気の圧力・流量、温度、湿度などを制御しながら実験を行います。

地下100km相当の圧力で試料合成する超高圧合成装置

超高圧合成装置。超硬合金(タングステンカーバイド)製の圧力印加媒体の中心に試料を投入し、テストを行います。最大10万気圧で今までにない新規化合物を生み出します。

愛称は仙台初代藩主の伊達政宗公にあやかり「MASAMUNE」です。10万気圧と言われている月の中心ぐらいの気圧まで、日常では到達が難しい条件で材料を合成する装置です。超高圧をかけると、この化合物はこういう特性を持つようになる、ということが分かります。では、圧力を変えて何をしているかというと、原子と原子の距離を変えたいわけです。圧力によって原子がまとっている電子のエネルギー状態が変わるのですが、その変化がどういうものなのかを評価します。実験では、タングステンカーバイドという超硬合金でできた円卓のような圧力印加媒体の中心に試料を投入し、テストを行います。上下方向に圧力が加えられますが、試料には360°全方位から当方的に圧力がかかる仕組みになっています。試料の大きさはちなみに、0.5cm四方程度です。

円形の圧力印加媒体の中央に試料をセッティング。

8x8x8cm程のサイズの内部に仕込まれる試料は0.5cm四方程度。

自然では起きない混合を導く

パルスレーザー堆積装置。プラズマ現象を用いて、通常では混ざらない物を混ぜるために使います。

試料はアルゴンが満たされたグローブボックスの中で取り扱いします。

自然状態にはなく、非常に混ぜりづらいものを、無理やりプラズマ現象を用いて混ぜる装置になります。具体的には、材料の表面にすごく強い紫外レーザーを打つことで一瞬で、材料が蒸発するのですが、その際に起きたプラズマ現象により飛んだ化合物を集めることになります。これも無理やりくっつけた物がどのような特性を持つのかを知りたいためにやる実験です。邪魔なものが混ざらないよう、試料はグローブボックスの中で扱います。

材料科学には化学と物理、どちらも求められます

物理のセンスと、化学のセンス、両方求められるのが材料科学です。材料科学には物理をやっている人には計り知れないような複雑性があり、化学をやっている人には想像できないような根源性がある。電子の軌道を考えることが必要になってくる一方で、化学反応を捉える必要もあります。ちなみに、セラミックスは今、窒化物が熱いんです。窒化物はつくることがそもそも難しく、ようやく最近になって窒化物、さらには、部分的に窒化した酸化物である酸窒化物の機能性が明らかになってきました。窒化物の代表選手は青色LEDです。窒化物、酸窒化物の荒野は果てしない。多くの開拓者が求められています。