東北大学 工学部
材料科学総合学科

Department of Materials
Science and Engineering

東北大学工学部材料科学総合学科

Department of Materials Science and Engineering

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生体システムに機能する“材料”を探る

私たちは将来の医療技術開発への貢献を目指しています。これまで、再生医療を応用先とした研究では、体内の細胞を活性化する方法を開発したり、体外で細胞機能を改変したり細胞を立体的に配置して生体組織に類似の3次元組織を造るための細胞足場材料などを開発、医用高分子の研究では細胞の凝集体の内部へ薬剤を届けるためのナノマテリアルの合成に成功しています。また、これまで培った技術を応用して、「ナノ・マイクロプラスチック」に関する研究も始めました。SDGsという言葉が世界的に受容される現代で、「ナノ・マイクロプラスチック」は悪者に見立てられています。微細なプラスチックごみが環境を汚染し、生態系に悪影響を与えると考えられています。私たちはこの「ナノ・マイクロプラスチック」が生きものにどのように作用するのかについて研究しています。

研究は推理小説に似ている部分があります。
結論が見えているようではつまらない。

東北大学大学院工学研究科 材料システム工学専攻 山本・小林研究室
教授 山本 雅哉

医療材料の開発、そして再生医療に携わり、実用化に近い研究を積み重ねてきました。今、関心がナノ・マイクロプラスチックにまで拡がり、新たな研究テーマが緒に就いたばかりです。ナノ・マイクロプラスチックはいわば極めて微細なプラスチックのごみです。日常的に使っているものでいうと、例えば、紅茶のティーパックや洗濯物の排水にナノ・マイクロプラスチックが混ざっていると言われています。つまり、至る所に微細なプラスチックごみがあります。しかし、それが地球環境や生態系に対しどのように影響するのか、まだあまり分かっていません。医療材料も体内に入ってしまえばいわば異物であることは一緒です(笑)。生きものと材料とが出会う場所(界面)、その理解は医療材料でもナノ・マイクロプラスチックでも同じだと思っています。医療とナノ・マイクロプラスチックという無関係がつながるんです。ただ、つなげるためには界面の理解が必要です。ナノ・マイクロプラスチックはとても小さいから捉えにくくて、評価が難しい。でも、そこをなんとか捉えて評価できるようにしたいというのが、今のテーマになっています。

研究というのはほとんどうまくいかないものです。私は推理小説がすごく好きですが、研究はどこか推理小説的な部分があるものだと思っています。要するに、推理小説では事件、研究では課題・問題があって、こうじゃないかなと推理を進める。でも、それはすぐにうまくいくことは少ない。この作戦は駄目だったから、次はこの作戦だ、という具合に進めていく。作戦が次々に駄目でもいいんです。ヒントはもらえるはずですから。そういう積み重ねがあって、その先に初めてこれだ!というのが出てくるのが研究だと思います。

細胞の培養に必須な無菌状態をつくる

この装置の中には、0.3マイクロメートルの大きさの粒子を99.97%以上捕集できるフィルターが設置してあります。このフィルターを通して空気が流れる構造になっており、空気中の雑菌がほとんどないクリーンな環境で細胞を培養できます。

装置の上にフィルターがあって、そこを通った空気が流れてくるようになっています。いわゆるエアカーテンです。この装置の中に手を入れ、無菌状態で培養用プレートに細胞を封入します。この作業をするときは、細胞に雑菌が入らないように万全の体制で、注意力を最大限に高めて行います。実際の培養は培養器で行います。欲しい細胞は細胞バンクから購入し、準備します。入手困難な細胞は、研究者間のネットワークで入手できることがあります。

AI全盛ですが、まだまだ手を動かしています。研究は次のステップが見えたときに大きな喜びがあります。

 

ナノ・マイクロメートルスケールの自己組織型機能性粒子や、細胞内移行を自在に操ることのできる高分子ナノキャリアなどの開発を行っています。一つのキーワードはドラッグデリバリー・システムです。体内の患部に効率的に薬を届けるものです。AI全盛ですが、まだまだ手を動かしてせっせと実験を行っています。いずれは世に出ていくようなナノキャリアを生み出したいです。さまざまな知見を集めて、そこから仮説を立て、実際に確かめて「正しい」となったときは、この上なく嬉しいです。なぜなら、このとき初めて研究のステップを次に移すことができるからです。研究の醍醐味はここにあると私は考えています。

細胞や細胞凝集体などの微細構造を観察する

電動ステージが付いていて、広い視野で細胞が観察できます。3次元観察ができ、厚さ100マイクロメートル程度まで観察可能です。

観察した細胞を3Dで解析することができます。細胞凝集体などの立体物にどのように分子が入っていくかを追跡できるので、例えば、血管モデルを作り、そこにナノ・マイクロプラスチックを流して、実際にどのようにナノ・マイクロプラスチックが血管細胞に入っていくか観察できます。今ある機械は焦点も自動追随してくれてとても便利です。私たちの研究室にとって、共焦点レーザー顕微鏡は、培養した細胞を詳細に観察するいわゆるエース的存在になります。ちなみに、ナノレベルになると電子顕微鏡の出番です。

細胞をマイクロオーダーでスライスできます

操作には職人技が必要です。今、山本・小林研究室ではナノファイバープラスチックから切片を作るのに使っています。

 

細胞をマイクロメートルサイズまで薄く切ることができます。病院でもがんの病理診断に使われている装置です。本来であれば、手術をして取った生のがん細胞はホルマリン漬けにして病理診断するわけですが、それだと数日程度の長い時間が必要になります。この装置を使えば、凍らせて切ることで、すぐに細胞の状態を見ることができます。ただし、操作には職人技が必要です。今、われわれは細胞の断面を見るだけでなく、ナノファイバーを細かく切ったナノ・マイクロプラスチックを作ることにも活用しています。