東北大学 工学部
材料科学総合学科

Department of Materials
Science and Engineering

東北大学工学部材料科学総合学科

Department of Materials Science and Engineering

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溶融塩電気化学を突き詰め、新規材料製造からリサイクルまで取り組む

私たちの研究室では主に溶融塩の電気化学を武器として材料研究を行なっています。溶融塩とは文字通り、高温で液化した塩のことです。溶融塩は難還元性のレアアースまでも還元できる優れた媒体であり、また、溶融塩自身が他の物質と反応を起こし、金属をつくることもできます。電気化学は金属とイオン間の電子の行き来や、それに伴って起こる現象を扱う学問分野です。私たちは溶融塩と電気化学の手法を活用し、新規材料の製造から、金属リサイクルまで取り組んでいます。

アルミホイルが家庭に普及しているのは溶融塩電解のおかげ

准教授 竹田修

東北大学大学院工学研究科 金属フロンティア工学専攻 朱・竹田・朱研究室
准教授 竹田 修

溶融塩中での電気分解(溶融塩電解)の成果をあらわすものの代表例がアルミニウムです。溶融塩電解により、アルミニウムを容易かつ大量に抽出できるようになったことで、アルミホイルが家庭にありふれている状況が今あります。溶融塩電解が歴史上、明確に意図を持って使われ始めたのは19世紀初頭です。イギリスのハンフリー・デービーが初めて溶融塩を使って電気分解に成功したと言われています。最初は、金属のカリウムや、ナトリウムの抽出に成功しました。ちなみに、デービーの弟子としてマイケル・ファラデーという人がいます。『ファラデーの電磁誘導の法則』などでよく知られた人物です。ファラデーはイギリス王立研究所(Royal Institution of Great Britain)にいたのですが、毎年クリスマスの時期にクリスマス・レクチャーという講義を行うなど、科学を社会に普及させるために尽力した人物でもあります。溶融塩電解の技術が世に現れて200年。時代に合った形で“チューン”され、今後も溶融塩電解は社会を支えていきます。

実験の様子

溶融塩の原料は実にさまざま!

溶融塩の原料

ピンクやブルーの原料もあってとてもカラフル。どの塩がどんな特性を持つのか、実験を繰り返して自然の本質に迫ります。

溶融塩の原料

塩といって思い浮かぶのは、家庭にある食塩だと思います。一方、化学の世界では正の電荷を持った「陽イオン」と負の電荷を持った「陰イオン」が結合して形成された物質のことを「塩」と呼びます。同じ溶融塩でも、塩どうしの混ぜ具合で特徴が違ってきます。

溶融塩を使って、サステナブルな社会の構築に貢献します

助教 盧鑫(ルー・シン)

 

ニッケル基超合金

私たちの研究テーマは大きく「溶融塩電解を用いた新規機能性材料作製」、「溶融塩を用いた金属の新規製造法」、「溶融塩電解を用いた新規金属リサイクル」という三つです。まず「溶融塩電解を用いた新規機能性材料作製」ですが、具体的にはアルミニウム、クロム、コバルトといった合金化元素を配合したニッケル基超合金の表面に、二珪化モリブデン(MoSi2)製耐酸化被膜の形成を目指したものです。これが完成すると、ニッケル基超合金で製造されるガスタービン等の使用温度を大幅に上げられるようになり、火力発電の効率向上やCO2排出の低減にもつながります。

次に、「溶融塩を用いた金属の新規製造法」では、溶融塩中のチタンイオンの動きを制御し、金属チタンと金属アルミニウムを原料として、比較的低温でチタン粉末、チタン-アルミニウム合金粉末を製造することに挑戦しています。チタンは加工しにくい材料で、加工コストが非常に高いです。この研究では、より低温の溶融塩を利用し、均一なチタン系微粉末の製造法を開発することに取り組んでいます。

さらに「溶融塩電解を用いた新規金属リサイクル」ですが、現状目指しているのは、溶融塩電解を用いて不純物が大量に含まれるアルミニウムスクラップから純アルミニウムを製造することです。従来のアルミニウムリサイクルはリサイクルの過程で純度が下がる“ダウングレードリサイクル”で、ほとんどの再生アルミニウムは鋳造合金として自動車エンジンなどに使用されています。しかし、電気自動車の普及加速、いわゆるEVシフトによって、将来、自動車エンジンの需要が大幅に減り、この不純物の多いアルミニウムの使い道がなくなってしまう可能性が高いです。私たちは、アルミニウムスクラップをリサイクルによって純度を向上する“アップグレードリサイクル”法を開発し、真のアルミニウムサステナビリティの実現を目指しています。

雰囲気の水分を徹底排除し、その中で薬品の調合や実験後の試料の回収等を行います。水は溶融塩の中で起こる反応の多くを阻害するので、溶融塩にとって”敵”です。

グローブボックス

塩は一般的に吸水性が強いので、空気に触れるとすぐに水分を含んでしまいます。グローブボックスの中は水分濃度が極めて低い状態にしています。この中で塩を混ぜる、秤量するなどの作業を行います。

実験の様子

溶融塩を使った研究をする上で、水は敵です。水分があると、目的の反応の前に水が分解してしまうからです。なので、非常に水分の少ないグローブボックスの中で作業をします。グローブボックス本体にサンプルを入れる前に、試料を移送する”パスボックス”でいったん前処理を行います。パスボックス内をいったん真空にし、そこに乾燥した不活性ガス(アルゴン)を充填し、その作業を何度も繰り返してからグローブボックスに移します。なぜそうしたことをするかというと、試料の表面に水分子や酸素分子が吸着しているからです。いわばパスボックス内で塩のクリーニングをしています。

失敗を重ねた先で、最終的に自分が予測した結果にたどり着けたときは無上の喜びです

アルミニウム

原料となった不純物混じりのアルミニウムと、そこからリサイクルした純アルミニウム

実験機器

学理に基づいて実験を設計し、いろいろな工夫を施しますが、実験は失敗がつきものです。でも、その失敗を重ねた上に、最終的に自分が予測した結果が出たときは本当にうれしいもので、自分にとってはそれが研究の一番面白いところです。今、私が最も力を注いでいるのはアルミニウムスクラップから純アルミニウムをアップリサイクルする研究です。最近、一番うれしかったのが、実際にスクラップから純アルミニウムを作れたことです。2020年春頃のことでした。小さな電気炉で実現でき、すごく興奮したことを覚えています。社会で価値を失った金属資源に再度価値を与えることはとても有意義で、その手法の確立は私のミッションだと感じています。とても魅力的な研究課題でワクワクしています。

アルミニウムスクラップの、アップグレードリサイクル法の確立は近い!

アルミニウム

従来のアルミニウムリサイクルはリサイクル過程で純度が下がる”ダウングレードリサイクル”で、航空機材料など高い品質が求められるアルミニウム製品には使えません。われわれはアルミニウムを溶融塩電解し、電極に析出させ金属アルミニウムとして回収する手法で、純度の高いアルミニウムを取り出すことに成功しています。まだまだ基礎研究の段階ですが、アルミニウムのアップグレードリサイクルの道が見えてきています。