

新しい“何か”をつくり
自分の存在価値を感じたい
−佐藤裕先生に
材料科学の魅力を教えられた
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小学生の頃から算数が好きで、計算力に自信がありました。よく覚えているのは小学校低学年の頃、クラスで「百ます計算」に取り組んだことです。問題を解くスピードを競いましたが結果はいつも1位か2位でした。中学に入っても数学には得意意識があり、高校では得意なことをもっと伸ばそうと宮城県仙台第三高等学校の理数科に進みました。
進学先として東北大学工学部材料科学総合学科に興味を持つようになったのは、仙台三高OBが社会に出てからの仕事を紹介してくださる社会人出前講座がきっかけでした。高校1年生のときに、佐藤裕先生がいらっしゃって、材料科学は元素の組み合わせ、配合によってさまざま新しいものをつくり出せる、奥深い学問だと教えてくれました。私は高校生の頃、ぼんやりと何か新しいものをつくりたいと考えていました。佐藤先生のお話で材料科学に無限の可能性を感じ、世界でも有数の、材料の研究機関である東北大学工学部材料科学総合学科を志すようになりました。今思えば、漠然と新しいものをつくって自分の存在価値、生きている価値というものを実感したい、そして、世界に知らしめたいという思いがあったのかもしれません。
無事に東北大学工学部材料科学総合学科への入学を果たし、材料の特性のみならず、材料をつくるプロセスについて学習していくにつれ、新しいプロセスをつくることに興味を持ちました。学部4年時から、太陽地球システム・エネルギー学講座資源利用プロセス学分野の葛西研究室(現村上研究室)に所属し、そこで私は、日本のCO2排出量の約14%をも占める製鉄プロセスにおいて、CO2排出量を大幅に削減しうる、革新的なプロセスについての研究を村上先生の下で行いました。そして、CO2排出量を効果的に削減できると見込める操業条件をある程度、見極められたのです。実験は想定の結果が得られないのが当たり前の世界です。そうした事態に対してある一定の結論を得るには、トライ・アンド・エラーを何度も繰り返す、しぶとさが何より求められます。

研究室では楽しい思い出がいっぱい
苦しいときはみんなで支え合った
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研究室では楽しい思い出がたくさんあります。研究室のメンバーで2カ月に1回程度の飲み会をはじめ、研究室内で鍋を囲んだり、研究の息抜きにキャッチボールをしたり、バッティングセンターに行ったりと、挙げたらきりがないほど一緒にさまざまなことをして笑い合いました。もちろん、楽しいことだけではなく、研究は忍耐が必要ですから、苦しいときもあるのですが、そうしたときも励まし合って乗り越えました。卒業論文、修士論文は文章量が膨大になりますので、提出間際になるとみんなで夜中や、ときには朝まで残って作業しました。苦労を分かち合ったメンバーとは今も深い絆を感じます。
学部生時代を振り返って、その他、強く印象に残っているのは部活動です。卓球部に所属し、種々多様な学部学科に所属している先輩、同期、後輩と関わりを持てたこと、そして、小学5年生から始めた卓球に大学でも部活動として関われ、みんなで一つの目標に向かって団結し、一緒に頑張れたことは自分の大きな財産です。勝つために何が必要かを自分でよく考えて練習したり、周りからもアドバイスを受けたり、逆に自分から仲間にアドバイスしたり。そういった地道な努力を積み重ねました。その結果、問題解決力が培われていったように思います。
自分の身の振り方として、私の場合は博士前期課程を終えて就職していますが、学部4年時には、そのようにすることを決めていました。それは、就職先の選択肢の広さや、問題解決力の養成を総合して考慮したうえ、最適なタイミングであると自分なりに考えたからです。今、私は株式会社神戸製鋼所製銑部製銑技術管理室に配属され、働き出して丸3年が経ちました。もともと神戸製鋼所とは博士前期課程1年のときから共同研究を進めていて、その共同研究をやっていた会社に結果的に入社しています。製鉄プロセスを主な研究テーマにする研究室に3年いて、それでもなお、製鉄系の会社に望んで入っているわけですので、自身の研究が好きだったんだなと思います。

製鉄のプロセスは実にダイナミック
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日本にはいくつかの大規模鉄鋼メーカーがあり、神戸製鋼所はそのうちの一つですが、私がこの神戸製鋼所を第一希望とした最大の理由は、カーボンニュートラルに向けた挑戦を世界に先駆けて行っており、自分もその挑戦に参加したいと思ったからです。加えて、企業訪問をしたときに社内の雰囲気が良く、働きやすそうだと感じました。製鉄所は他のどの工場よりも圧倒的にダイナミックです。
工場見学は博士前期課程1年時のときでしたが、その際、神戸製鋼所を知るのにとてもお世話になったのが卒業生の方です。やはり就職活動で一番重要なのは希望する会社をよく知ることです。社内の雰囲気や、どんな思想の下に事業を行っているかを自分なりに理解、解釈することが実際に入社してからの印象におけるギャップを少なくすることに役立ちます。そのためにも卒業生の方とよくコミュニケーションを取ることが大事になってきます。

現在、私が担当している業務は、微粉状の鉄鉱石を高炉に入れる前に焼き固め、ペレットと呼ばれる塊を製造する、ペレット工場の技術開発です。ペレットは主に高炉向けに製造されるものですが、カーボンニュートラルに大きく貢献できる革新的な製鉄プロセスの主原料にもなるため、今後、ペレット製造技術は世界的に需要が増加することが予想されます。加えて、ペレット工場を所有している鉄鋼メーカーは国内で神戸製鋼所のみであるため、独自の高い技術は世界で重宝されます。私の具体的な業務内容としては、鉄鉱石にも多種多様なものがある中で、安い鉱石をより多く使用する方法や、今後、産出量が減っていくと想定される鉱石が入手できなくなった際にも、安定してペレットを製造し続ける方法を、操業技術の観点からアプローチして見出すといったことになります。私がこれまで関わった業務の一つに、ある安価な鉱石の使用量を減らすと操業に悪影響が生じるという問題がありました。問題の根本の原因を明らかにするため、仮説を立て、検証し、結果が想定と異なればその原因を考え、次の仮説検証を行う、ということを繰り返しました。その中で、テストの仕方や結果の解析方法なども、現場の皆さんや上司、他部署のかたがたと何度も相談しました。その結果、ある技術の元で操業を行えば、鉱石の使用量を現状よりも低減できると証明できました。苦労が大きかった分、多くのかたがたの協力を経て目標達成につながったことで、とても大きなやりがいを感じました。上司や先輩、同僚からお褒めの言葉をいただいた時は本当に嬉しかったです。今後はもっと自分の力でやれることも増えていくでしょうし、そうすると、得られるやりがいもさらに大きくなっていくと思っています。

フランクで堅苦しくない社風
相談しやすい環境で日々、仕事に邁進
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学生時分の研究内容が現在の仕事につながっているのは、私が鉄鋼メーカーで働くことを希望し、それが叶っていることから当たり前ではありますが、学生のときに身に付けた、原因を想定して実際に検証し、想定と異なればそれがなぜかを考える、次の検証につなげる、といった問題解決スキル。そして、自分の言いたいことを相手に適切に伝えるプレゼンテーションスキルが今、とても役立っています。問題解決へのアプローチですが、私は手を付けられそうなところからやることを心がけています。もともとあれこれ考えて迷ってしまうほうなので、いろいろなやり方のメリット、デメリットを考えつつ、着手しやすい点から解決を試みるようにしています。また、その前提としていろいろな人と相談して、方針を決めます。
プレゼンテーションについてですが、まずは作った資料を何度も初めから読み直してみて、何か気になるところがあったら、都度修正します。やはりストーリーがしっかりしていないと発表を聞く側の人たちは内容についてきてくれません。さらにプレゼンテーション中も、その場の反応を見ながら、ここはより詳しく説明したほうがいい、このポイントはみんなよく知っているようだから、飛ばそうなどと、軌道修正もできるようになりました。

入社してみて実感した、神戸製鋼所の良いところとしては、フランクで堅苦しくない社風。そして、入社して早くから活躍できる、風通しの良い職場環境が挙げられます。私の場合、配属されてすぐに、ある大きな問題の解決を担当しました。初めは何も知識がないので、いろいろな方から情報を仕入れ、得られた情報をもとにテストを実行し、データを解析し報告していきました。配属されてすぐ第一線で仕事ができる環境が神戸製鋼所にはあります。上司だけでなく、現場の方も懇切丁寧に、私の知らないことを教えてくれます。一口に言えば、神戸製鋼所の社員はみんな優しいのです。その優しさに大いに助けられています。誰とでも気軽に話ができるというのは、仕事をする上で大きなメリットです。
宮城県利府町で育ち、前期博士課程を終えるまで実家で暮らしていましたので、就職して、初めて1人暮らしを経験しています。自分のペースで過ごせるため大いに1人暮らしを楽しんでいるところです。兵庫県加古川市に身を置いて、学生時代を振り返ると、やはり東北大学というのは研究する環境として非常に優れていたということに思い至ります。新しい建物・設備があり、快適に研究することができました。要はできる実験、研究の幅が広いのです。材料は社会の根幹となるものであり、必ず必要とされます。そうした材料を世界に冠たる東北大学工学部材料科学総合学科で学習し、研究すれば、おのずと社会の最先端で活躍できる人材になれるのではないでしょうか。
まだ、社会人になって丸3年、これからも自分にさまざまな困難が降り注ぐと思いますが、学生時代に身に付けた、うまくいかないことがあっても、めげずに粘り強く原因を追求する姿勢を常に持ち続けていきます。製鉄プロセスにおいてCO2を排出しないようにするにはどうすればいいかという命題に立ち向かい続け、いつか自分なりの答えを見つけ出したいと思います。
