ロールモデルになる先輩方の働く姿をご紹介

MAST21 Alumni Interviews

#8

金属材料の世界は一生かけて挑めるフロンティア

野戸 大河〔株式会社日本製鋼所〕

東北大学大学院 環境科学研究科
環境科学専攻 博士前期課程 修了

野戸 大河
ロール状の銅板 画面を見る野戸さん

コツコツ型の
私が選んだ東北大学

私の出身地は北海道の南、渡島半島の知内町です。日常の買い物をするにも隣町に行くような町ですが、言い方を変えれば自然豊かな場所でした。町の郷土資料館の学芸員さんが主催していた、町の自然に関する勉強会によく参加していたこともあり、自然とは頻繁に触れ合う幼少期を過ごしていました。一方で、週末はよく家族で函館に買い物や遊びに出かけましたので、自然に寄り添う視点と都市的な視点の両方を併せ持つ子どもだったと思います。

知内町は青函トンネルの北海道側の入口の町でもあり、行き来する電車を見て育ったことで、電車好きの子どもとなりました。電車の仕組みを図書館などで調べたりもしました。それが工学に興味をもつきっかけになったのかもしれません。

また、テレビゲームでもよく遊んでいました。好きなジャンルはRPGで、私の場合、ひたすらモンスターを倒して経験値を貯めてレベルを上げることが大好きで、自分が頑張った成果が確実に積み上がっていくことに喜びを感じていました。

このような少年時代を過ごし、函館の高校へと進学しました。高校での文理選択で理系を選んだのは、これらの子ども時代の経験が影響していたと思います。大学の進学分野を選ぶにあたり、子どもの頃に親しんだ自然を学べる学部も考えましたが、電車のような工学的なものへの興味の方が強かったので、その道に進むことにしました。

東北大学を選んだのは、北海道に近いという地理的な要因もありますが、もう一つの決め手として2次試験問題の印象がありました。個人的な感想ですが、大学の試験問題にはその大学の考え方が強く反映されていると思います。例えば京都大学であれば、発想力を問われるような問題が出ます。東北大学は、基礎の延長をたどれば答えられるような、ある意味「素直」な問題なのです。これはコツコツと積み上げるタイプの自分に合っていると思えました。また、尊敬する高校の先輩が東北大学に進んでいることも後押しになりました。

外を眺める野戸さん 外を眺める野戸さん

大学と企業の違いを
味わった連携講座の日々

東北大学在学中の最も印象に残った経験はやはり東日本大震災です。1年生の春休み中だったので実家にいましたが、仙台に戻るとキャンパスが大きな被害を受けていました。在学中はいたるところで復旧工事が行われていて、私自身もプレハブ棟での学生生活を余儀なくされました。ただ、教職員も私たち学生も、この非常事態をなんとか乗り切ろうという一体感を持っていたのが心の支えとなりました。

材料科学総合学科は、その名の通り材料を学ぶ学科で、例えば鉄鋼、非鉄金属、有機材料、あるいはそれらの接合など様々な現象の基礎を包括的に学ぶ学科でした。私が一番印象に残っている講義は金属の製錬に関するもので、各種鉱石をその特性に応じた多種多様な方法で金属に製錬する人類の工夫に感銘を受けました。中でも、鉄の製錬は鉄鉱石を石炭で還元する高炉法が日本では主流ですが、スクラップ鉄を電気でリサイクルする電炉法があることを学び、この頃から持続可能な製造プロセスについて考えることが多くなりました。

そのようなことを考えていたので、大学院は環境科学研究科に進み、研究室は千葉県富津市にある新日鉄住金(現在の日本製鉄)の研究所と大学の連携講座に配属となりました。2年間の大学院在学期間の内、最初の半年間で修了に必要な単位を取り終え、1年生の後半から千葉県富津市の新日鉄住金の社員寮に入り、指導教員のもとで実践的な研究をさせてもらいました。私はアモルファス合金の研究に関わりました。アモルファス合金は、溶けた状態の金属に1秒間に1万℃以上の超高速冷却を施すことで、本来は規則正しく原子が配列されるはずの金属がガラスのように不規則に配列した合金です。アモルファス合金は変圧器の部品に用いるとエネルギーの損失を減らせるということで、社会的な意義を感じながらその研究に関わりました。

説明をする野戸さん
JSWの展示物
説明をする野戸さん

学生という身分でありながら、大きな会社組織に放り込まれ、端から見れば会社員に見られてしまうような境遇の中で研究を進めました。大学の研究室との大きな違いは、製品を見据えていた点です。大学では主に現象の解明にフォーカスすることが多いですが、連携講座では他社よりも良い製品を作るための研究開発を行うという強い意志を感じました。ここでの研究スタイルは、社会人として研究開発を行う上で、大学で研究を行っていた学生よりも有利に働いたと思います。

富津市は知内町に近い自然豊かな雰囲気で住みやすかったです。近所の海ではサーフィンなどのマリンスポーツが盛んでしたし、連携講座の2人の同期と市内の観光牧場に行ったり、指導教員の先生と一緒に登山をしたり、千葉の歴史を学んだりと満喫しました。

連携講座での研究と並行して就職活動が始まりました。私は大学院修了後も研究を続けたいというモチベーションがありました。データの蓄積、やるほどにできることが増えていく、コツコツ型の私に向いている働き方だと考えたからです。

顕微鏡を操作する野戸さん 顕微鏡を操作する野戸さん

当初は本州の会社への就職を検討していたのですが、就職活動中に家族の元にすぐに向かえることの必要性を感じる経験があり、北海道の会社への就職を検討しました。日本製鋼所のことは学部時代の研究室の先輩が入社したことで存在を知りました。ただ、入社後に親戚が社員であることを知り、縁のある会社だと感じました。

就職活動の日程は目まぐるしいものであったことが印象に残っています。当時、研究成果の発表のためにフランスの学会への出席を予定していたのですが、帰国日の翌日に面接日を指定され、フランスから羽田空港に到着後に寮に帰る間もなく北海道に飛び、室蘭での面接、その数日後の東京本社での面接と矢継ぎ早の展開に翻弄されました。ただ、結果的に内定をいただけて安堵しました。外国での学会発表を終え、緊張感がほぐれた状態で受け答えできたのが良かったのかもしれません。

よく他の社員などから2年間携わった新日鉄住金になぜ就職しなかったのか、と聞かれます。今思えば、確かにその道もありえたと思うのですが、日本製鋼所は電気炉を採用しており、CO2排出量を大幅に削減できる点が、持続可能な製造プロセスについて関心が高かった当時の私の考えと合致しました。

顕微鏡をのぞく野戸さん
パソコンに向かう野戸さんと顕微鏡
展示品を説明する野戸さん

自らの研究の意味を
見つけられるまで

入社後、希望通り研究部門に配属になったのですが、当時は製品知識がほぼ無く、大変苦労した思い出があります。ただ、大学で知識の土台が構築されたことで社会人になってからの学びがスムーズに進められたと感じます。

入社以降、自分の仕事と会社の事業とのつながりを初めて強く感じた出来事がありました。それは入社3年目のことで、アメリカ・カリフォルニア州のフライホイール蓄電装置を製造するベンチャー企業がアジア地域進出を計画しており、フライホイール材の調達先候補として声がかかったときのことです。フライホイール材は重量があり強い遠心力への耐性が要求される鉄鋼部材で、まさに日本製鋼所が得意とするものでした。しかし、相手が要求する仕様にいくつか検討を要する点があったので、その課題解決に関わりました。こちらが提示した解決策はそのベンチャー企業から高く評価され、無事日本製鋼所がフライホイール材の供給を担うことになったのです。

日本製鋼所には私のような大学で専門知識を学んだ研究員と、試験作業を担う技術員がいます。研究員は技術員に作業を指示するという構図が基本になりますが、逆に技術員から学ぶことも多く、自分自身まだまだ未熟だと感じることが今でもあります。お互いに意見をぶつけ合いながら、ともに成長していきたいと考えています。

日本製鋼所の野戸さん 日本製鋼所の野戸さん

博士号取得を視野に
さらに成長したい

この職場でのキャリアを積み重ね、管理職の一歩手前まで来ました。徐々に指揮できる範囲が広がってきました。日本製鋼所は明治創業の歴史が長い会社であることもあってか、職人気質の社員が多く、自動化されていない作業が多く残っています。その気質を大切にしつつも作業の効率化などを指揮していきたいと思っています。

将来像ですが、材料にもっとも深く携われるのは30代の今がピークだと考えています。40代になるとグループマネージャー(課長)となり管理業務が主体になっていきます。

材料に携われる今のうちに博士号取得へのチャレンジを視野に入れています。弊社の場合、博士号取得を希望する社員に対して好意的でサポートが手厚いので、将来的に自分がその立場になった際はそうしたサポートを受けながら取得したいと思います。

私が携わる金属材料の世界はまだまだ未知の部分が多い領域なので、一生楽しめる仕事に就けたな、と今では考えています。学生の皆さんには、ぜひこの分野を選んでいただき、いつか一緒に働ければと期待しています。

知識を得るために重要なこととして、実物を見ることの大切さを痛感しています。大学院時代にフランスの学会に参加した際に、エッフェル塔や凱旋門をこの目で見て、テレビで見て知っていたものと実物の迫力が全く異なることが強く印象に残りました。若い皆さんには、ぜひ外の世界に飛び出し、いろいろなものを自分の目で見て、そのリアルな印象を感じ取ってもらえればと思います。

株式会社日本製鋼所
jsw.co.jp

株式会社日本製鋼所内の野戸さん 株式会社日本製鋼所内の野戸さん