環境材料表面科学
環境材料表面科学
環境材料表面科学

環境材料表面科学分野

教授
和田山智正
准教授
轟 直人

物質表面での様々な反応を、原子・分子レベルで観察する“表面科学”。基礎的知見の積み上げが、未来の科学技術とつながっていく。

 

材料全体の機能や性質を左右する、ミクロの世界の“表面”の不思議。
“ 表面科学(surface science)”とは、物質の表面や界面をミクロ/ナノスケールで扱う研究分野です。固体の表面に並ぶ原子は、固体の内部を構成する原子と比べて非常に数が少ないため、物理的・化学的反応に対する影響力は少ないだろうと長らく考えられてきました。しかし1800年代後半、固体が外部とエネルギーや物質をやりとりする場として“表面”が重要な舞台になっているとの研究が示されました。近年、デバイス材料の開発において、微細化が進んでいますが、表面の効果が材料全体の機能にどのような影響を与えるのか、明らかにすることが求められています。固体表面や界面が関わる工学的な事象として触媒作用、電極反応、結晶成長、接合、潤滑、焼結、固体センサーなどがありますが、これらの基本的なメカニズムについて知ることは、材料の開発および機能の向上に欠かせません。
表面・界面の分析においては、解析装置や実験手法の発達に伴い、原子・分子レベルでの観察が可能となりましたが、表面の反応(信号)だけを選択的に測定しなければならないという前提条件があります。また大気中では、さまざまな気体分子が衝突・反応するため、表面が絶えず変化し、安定した測定が困難になるという課題もあり、それが表面科学探究の難しさとなっていました。

表面は“踊り場”、条件によって繊細に変わる原子・分子の“ダンス”。
和田山研究室では、宇宙空間に匹敵するきわめてクリーンな真空中で、規則的かつ緻密に並んだ表面原子配列モデル(well-defi ned surface)を作製し、その原子・分子挙動を観察しています。例えれば、表面は“ 踊り場”であり、そこにやってきた原子や分子はくっついたり離れたりといった“ダンス”を披露するわけですが、表面の条件や環境によって、踊り方をその都度変え、表面の性質に影響を与えます。そうした振る舞いの観察、つまり基礎情報の積み上げが、表面の構造を制御するための貴重な知見となっていきます。
最近では、分子線エピタキシー法(MBE法)により構築した金属・合金表面系の電極触媒特性評価などに力を入れていますが、その延長線上には、次世代型自動車である「固体高分子形(PEFC)燃料電池自動車」があります。応用技術の礎となる基礎研究。未来とつながる豊かな可能性が、その地道で営々とした研究を推進させる原動力となっています。

Projects

開発に大きな役割を果たす表面科学の知見「白金触媒の特性評価」

ガソリンから水素へ。21世紀の課題・低炭素社会の一翼を担う燃料電池自動車。

燃料電池電極触媒開発のための表面科学アプローチ

次世代型環境対応車両の大本命、水素で走る燃料電池自動車。

運転時にCO2や排気ガスを出さない“ 究極のエコカー”として注目されているものに「燃料電池自動車(FCV)」があります。これは水素と酸素の化学反応によって直接電気を生み出し、モーターを回して走る自動車。ガソリンに代わる燃料である水素は、環境にやさしく、さまざまな原料からつくることができるエネルギーであり、化石燃料の消費を抑制して、低炭素社会をつくろうという目標にもかなっています。日本においては主要な自動車メーカーが開発にしのぎを削っており、世界に先駆けて燃料電池自動車の技術を確立しようとの狙いがあります。
燃料電池には、使用する電解質の種類によって数種の方式がありますが、燃料電池自動車の主流となっているのが固体高分子形燃料電池(PEFC)です。こちらはすでに家庭用の燃料電池として普及が図られていますが、自動車に展開するにあたっては、コスト削減、小型・軽量化、燃料電池(FCスタック)の耐久性向上などの課題があります。特にコストを圧迫しているのが、電極触媒(化学反応を促進させる材料)として用いられる白金(Pt)の存在。現在のところ自動車用の燃料電池1 台あたり約50グラムが必要とされますが、白金は希少かつ非常に高価な金属であり、その使用量を削減する方策が求められています。

実用化への要素技術、白金触媒の基礎研究分野を担う。

白金を有効利用するためには、ナノテクノロジーを用いて、粒径を小さく均一に分散することで反応を起こす表面積を大きくしたり、層を薄くして反応性を高めたりするなどの方法が模索されています。反応は白金触媒の表面だけで起こるため、“ 表面科学”の知見が非常に重要になってきます。 産学官を挙げて推進される燃料電池自動車の開発において、その基盤研究分野を担う和田山研究室では、高感度反射赤外分光法やラマン分光法といった振動分光学的手法による表面分子の挙動観察に加え、走査プローブ顕微鏡やX線光電子分光法といった多彩な表面分析手法を駆使し、白金電極触媒の挙動を原子レベルで観察・評価し、電気化学特性の理解を進めています。こうした和田山研究室のたゆまぬ取り組みが、未来の自動車を底支えしています。
ガソリン車から環境対応型車両へ。国内の新車販売台数に占めるハイブリッド車(HV)の割合は2011年に10%を超えました。次なるエコカーとして、燃料電池自動車に寄せられる期待はとても大きなものがあります。

Topics

鋭い味覚を競い合う『味利きゲーム』
豪華(?!)優勝賞品をめざして。

毎年12月末、4年生の卒論中間報告を終えた後に開かれる年越しパーティー。そこでの恒例イベントとなっているのが「味利きゲーム」。最初に味見をしたジュース、コーヒー、ミネラルウォーターはたまた焼きそばなどを元に、10種類以上のなかから正解を探り当るこのゲームは、毎回大盛り上がり! やはり普段から味にこだわりを持つ人が優勝する傾向多し、とか。賞品は“名誉だけ”にあらず、フォアグラ付ステーキという豪華な年も。今年は課題としてインスタントみそ汁もお目見えする予定です。 さて年越しパーティーを終えた後は、一年の感謝とともに実験装置の電源を落とすのが和田山研究室の習わし。来年は研究のさらなる進展がありますようにと願いを込めて…。

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