材料全体の機能や性質を左右する、ミクロの世界の“表面”の不思議。
“ 表面科学(surface science)”とは、物質の表面や界面をミクロ/ナノスケールで扱う研究分野です。固体の表面に並ぶ原子は、固体の内部を構成する原子と比べて非常に数が少ないため、物理的・化学的反応に対する影響力は少ないだろうと長らく考えられてきました。しかし1800年代後半、固体が外部とエネルギーや物質をやりとりする場として“表面”が重要な舞台になっているとの研究が示されました。近年、デバイス材料の開発において、微細化が進んでいますが、表面の効果が材料全体の機能にどのような影響を与えるのか、明らかにすることが求められています。固体表面や界面が関わる工学的な事象として触媒作用、電極反応、結晶成長、接合、潤滑、焼結、固体センサーなどがありますが、これらの基本的なメカニズムについて知ることは、材料の開発および機能の向上に欠かせません。
表面・界面の分析においては、解析装置や実験手法の発達に伴い、原子・分子レベルでの観察が可能となりましたが、表面の反応(信号)だけを選択的に測定しなければならないという前提条件があります。また大気中では、さまざまな気体分子が衝突・反応するため、表面が絶えず変化し、安定した測定が困難になるという課題もあり、それが表面科学探究の難しさとなっていました。
表面は“踊り場”、条件によって繊細に変わる原子・分子の“ダンス”。
和田山研究室では、宇宙空間に匹敵するきわめてクリーンな真空中で、規則的かつ緻密に並んだ表面原子配列モデル(well-defi ned surface)を作製し、その原子・分子挙動を観察しています。例えれば、表面は“ 踊り場”であり、そこにやってきた原子や分子はくっついたり離れたりといった“ダンス”を披露するわけですが、表面の条件や環境によって、踊り方をその都度変え、表面の性質に影響を与えます。そうした振る舞いの観察、つまり基礎情報の積み上げが、表面の構造を制御するための貴重な知見となっていきます。
最近では、分子線エピタキシー法(MBE法)により構築した金属・合金表面系の電極触媒特性評価などに力を入れていますが、その延長線上には、次世代型自動車である「固体高分子形(PEFC)燃料電池自動車」があります。応用技術の礎となる基礎研究。未来とつながる豊かな可能性が、その地道で営々とした研究を推進させる原動力となっています。