工業生産活動を支える基盤技術、その基礎的研究を担う。
金属と金属を“くっつける” 方法といえば「はんだ付け」を思い出される方も多いのではないでしょうか。すずと鉛の合金(近年、鉛フリーはんだも登場しています)を用いて母材(接合する材料)をつなぎ合わせるこの技法は、古代ローマで建設された水道管にも使われたという記録が残っています。溶接・接合技術は、すでに紀元前3000年までには登場していたとみられ、出土する青銅器などにその痕跡を見出すことができます。
くっつけることは、工業生産活動の要をなす技術。大型建造物や車両、船舶、航空機の製造過程で使われる以上、安全性と信頼性を担保する高い品質が求められます。しかし、溶接・接合するには、熱や圧力によって溶かしたり混ぜ合わせたり、また必要があれば溶加材(母材と母材の隙間を埋める金属)を使用したりします。すると材料が元々持っていた優れた性質が、多くの場合、低下してしまいます。こうした溶接・接合プロセスにおける材料組織学的な研究を行い、材料性能を維持する方法・技術を探究しているのが粉川研究室。当該分野での世界有数の研究拠点として知られています。
FSWの材料学的研究における世界のトップランナー。
次世代の接合技術として注目され、すでにアルミニウム合金を対象に実用化されているものに摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding;以下FSW)があります。従来の溶接・接合プロセスに比べ、数々の優れた性質を有するFSWは、自動車や新幹線車両、船舶などの製造の現場で導入されており、実は私たちの生活にとても身近な技術です。粉川研究室では材料組織学的なアプローチを通じて、FSWメカニズムや接合後の材料特性の解析、接合部位の高性能化、信頼性向上のためのプロセス改善などの研究を行っています。目下の研究課題は、FSWの実用範囲(鉄、チタン、異種金属)を広げるためのツール材料の開発。産業界からの要請も高まっています。
一方、発電や化学プラントなど過酷な環境で使用される耐熱耐食材料(オーステナイト系ステンレス鋼)の劣化現象の抑制に向けた粒界ナノ工学的制御も特筆すべき試み。粉川研究室がその作製に成功した「対応粒界が高密度に均一分布した粒界制御材料」は、世界最高の対応粒界頻度を誇り、特性を飛躍的に向上させたオーステナイト系材料の登場も視野に入ってきました。
工業製品に不可欠な接合プロセス。その発展を支える粉川研究室の取り組み。私たちの社会・暮らしと豊かな未来をしっかりつないでくれることでしょう。