くっつく時、そこで何が起きているのか?
ミクロの世界の現象を見つめるタフな研究。


例えば、身の回りにある製品でも、長い間使用していると継ぎ目から傷んだり壊れたりすることは経験的に知るところです。接合面というのはウィークポイントなんですね。材料をくっつけるためには熱や圧力によって材料を溶かしたり混ぜ合わせたり、また接合する材料(母材)の間に溶融金属を注ぎ入れたりします。その過程で、材料組織(ミクロ構造)が変化して、もともと備わっていた材料の優れた特性や性能が失われてしまうことが多いのです。接合技術は、自動車、鉄道車両、船舶、飛行機などの輸送機器全般、発電プラントなどのエネルギー分野、橋梁、高層ビル建設などにおいても不可欠であり、過酷な環境の下で長期間使用されてもなお安全性や信頼性、健全性を発揮・保持することが求められます。

「摩擦攪拌接合Friction Stir Welding(以下FSW)」は、プローブと呼ばれる円柱状の金属突起のついた接合ツールを高速回転させながら材料の突合せ面に沿って挿入し、そこで発生する摩擦熱によって材料を軟化させ、同時に攪拌(塑性流動)させることによって接合する方法です(図/写真2参照)。FSWは、低温(融点以下、溶解させない)・短時間でできるため、金属反応物の形成や接合時のひずみなどが抑制され、機械的性質も良好に保てるという特徴があります。様々な材料への適用が可能ですし、省エネルギーです。さらには技術者の技量に左右されないという特長も見逃せません。

(図/写真2)粉川研究室が有するFSWの実験装置

(図/写真2)写真は、粉川研究室が有するFSWの実験装置。今後、展開が期待される鉄鋼+チタン、チタン合金間のFSWでは、耐高温、耐摩耗性、粘り強さを備えた接合ツール材が必要となる。佐藤先生は、東北大学マテリアル・開発系の貝沼研究室と連携し、コバルト基合金を使ったツールの作製を試みた。特性やコストにおいて非常に良好な結果を示している。

いち早くものづくりの現場において、その特性や優位性が評価され、実装が推進されていったFSWですが、そもそもどのようにしてくっつくのかといった原理・メカニズムの探究が重視されることはありませんでした。当時、世界的にみても、FSWの基礎的な研究を担っている大学・研究機関はなかったのです。私が取り組んだのは、まさに先駆的な試みといえますが、パイオニアには付き物の困難が待ち構えていました。それを乗り越える力となってくれたのが、「私がやらなければ、誰がやる」といったある種の使命感だったかもしれません。

ここからは少し難しい話になりますが、お付き合いください。FSWでは、プローブが材料表面を、摩擦・攪拌させて接合させます。その際、表面のミクロ組織においては、複雑な現象・振る舞いが起きていることが予想されます。目に見えないところでどんなことが起きているのか-私が試みたのは、材料組織学的なアプローチ。材料界面にある酸化皮膜※2のミクロ組織を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope; TEM)で観察したところ、FSWプロセスによって酸化皮膜は破壊分断され、清浄面(新生面)が露出し、金属的接合を果たしていることが明らかになりました。また、塑性流動(攪拌)によって、結晶方位(集合組織)が揃うという興味深い現象も見出しました。接合部で起きているミクロ現象を知ることで、界面の制御が可能となり、FSWプロセスの最適化・効率化、品質保証につなげることができます。

ちなみにFSWに関する基本特許は 英国TWI 社が保有していますが、応用特許の大部分は日本企業が保有するなど、我が国は当該技術のトップランナーです。国際標準化を進めるにあたっても日本が中心となって進められました。現在、アルミニウム合金同士だけではなく、アルミニウム合金+鉄、ニッケル基合金+アルミニウム合金などの異材接合へと、その適用材料を広げており、自動車、鉄道、橋梁から、ロケットの外部燃料タンクの接合にも利用されています。

今後は、鉄鋼やチタン、チタン合金間のFSWが期待されていますが、そのためには1000℃にも耐える(強度、靱性、耐摩耗性を備える)接合ツールの開発が必須です。幸いにも、世界最大級ともいわれる研究施設群を誇る本学のマテリアル・開発系には、高温材料の先進的な研究開発を担う研究室が複数あります。まさにスケールメリットですね。異分野の研究者たちと連携・協働しながら、“くっつける”というシンプルにして複雑な技術と、その未来をつなげていきたいと思います。

※2
酸化皮膜:アルミニウムは酸素と結びつきやすく、空気にさらすとすぐに表面に薄い酸化皮膜を作る。FSWプロセスにおいては、酸化皮膜が接合特性に悪影響を及ぼすことが懸念されている。
取材風景
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