しなやかであれ、楽天的であれ。
困難多き研究の道を歩むために。


私たちの暮らしに最も身近な金属の一つに「アルミニウム(Al)」があります。1円硬貨(純アルミニウム)、アルミサッシ、アルミ缶などの材料としてお馴染みですね。軽くて加工性が良く、熱伝導性・電気伝導性にも優れ、高い耐食性を持つアルミニウムは、使い勝手の良い金属材料として、また添加元素として、今や様々な産業分野でなくてはならない存在となっています。アルミニウムの歴史は浅く、金属として単離されたのは19世紀の初頭。工業製品として広く使われるようになるのは20世紀に入ってからです。鉄が紀元前3000年ころ、銅に至っては紀元前8000年ころには使用されていたといわれていますから(諸説あり)、かなりの“新参者”であることがおわかりいただけると思います。

19世紀の半ばまで、アルミニウムは生産性が極めて低く、貴重品として扱われていました。1855年に開催されたパリ万国博覧会では「粘土からの銀」として展示されています。ちなみに時の皇帝ナポレオン3世は、アルミニウムが大のお気に入りで、食器を始めとする日用品や装飾品をアルミニウムでつくらせたといいます。一方で、その軽さを活かして騎兵隊の防具に活用することを考えていたようですから、さすが策士ですね。金よりも高価で、ごく限られた階層向けだったアルミニウムが、金属として工業的に生産されるようになるのは1886年。チャールズ・マーティン・ホール(米)とポール・エルー(仏)が、アルミナと氷晶石を用いた溶融塩電解法を、それぞれ独自に発明したことが契機となりました。このホール・エルー法は、アルミニウム製錬法として唯一のものであり、今でも工業的に利用されています。(大量生産が可能となるのは、大規模に電気が供給できるようになった20世紀半ばから)

この話は、「技術革新」が材料の可能性を広げ、さらに社会や暮らしを大きく発展させる原動力となることを示唆しています。私たち研究者が目指すところも、価値を大転換させるようなインパクトある創造を成すことです。ですが、ブレークスルーは一朝一夕に成し遂げられるものではありません。飽くなき探究心と情熱を抱き続け、日々の地道な取り組みを積みあげた先に実るものでしょう。研究は一筋縄ではいきません。しかし、一歩でも前進させる極意があるとしたら、それは「よく観察すること」に尽きると思います。材料プロセス反応のなかで何が起きているのか。もちろん仮説を立てたり、想像したりすることも大切ですが、時に“自然”は私たちの思考の枠外にあるものを見せてくれます。だから研究は興味深く、おもしろいですね。

研究という営為を続ける限り、失敗と無縁ではいられません。不首尾な出来事として捉えるのではなく、何かを学んでいきたいですね。そこで必要なのが、多面的・多角的に、また柔軟に物事をとらえる視点です。学生さんには、考察を目に見えるカタチにする方法として、事象を絵で描くことを勧めています。思考の見える化ですね。そうすることで自分の思考を客観化し指導者や研究メンバーとシェアすることもできますし、議論をより深めることができます。

私は「natural born optimist(生まれつきの楽天家)」だと思います。困難多き研究を進めるにあたって、この持って生まれた性質・個性にずいぶんと助けられています。……これは個人的な資質ですから、アドバイスにはなりませんが、研究だけではなく何事においても一方的・一面的な見方だけではなく、もっと違うアプローチを探ったり、可能性に挑んでみたり、広い視野で物事を見つめることが、大きなヒント・解決法につながっていくかもしれません。後編では、私が取り組む研究についてお話をいたします。

(図/写真1)「日本人の多くは文法的に正しい英語を話さなければならないと思っていますが、言語はあくまでコミュニケーションのツールなんですね。米国では、自分の考えを積極的に伝えなければ何事も進まないし、逆に自分から熱意をもって発信することで相手も協力してくれることを、肌身をもって知りました」と竹田先生。写真は、2016年10月から翌年8月まで、マサチューセッツ工科大学(MIT:Massachusetts Institute of Technology) のAntoine Allanore教授率いる研究グループで在外研究に取り組んだ時のもの。右から2番目。

(図/写真1)「日本人の多くは文法的に正しい英語を話さなければならないと思っていますが、言語はあくまでコミュニケーションのツールなんですね。米国では、自分の考えを積極的に伝えなければ何事も進まないし、逆に自分から熱意をもって発信することで相手も協力してくれることを、肌身をもって知りました」と竹田先生。写真は、2016年10月から翌年8月まで、マサチューセッツ工科大学(MIT:Massachusetts Institute of Technology)のAntoine Allanore教授率いる研究グループで在外研究に取り組んだ時のもの。右から2番目。

取材風景
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