冷却することによって起きる
特殊な形状記憶効果の発見


私の生まれは中国の北京市です。そして浙江大学に4年間いたのですが、その中の1年間は交換留学生として日本の大学で学びました。その時日本に好印象を持ちました。私は将来形状記憶合金の研究に取り組みたいと考えていましたが、それならば東北大学がいいとアドバイスを受けたのです。それで後に私の恩師となる貝沼先生とコンタクトを取ったところ、快く引き受けてもらうことができ、大学院からは東北大学での勉強をスタートさせたのです。東北大学は世界の最先端ですし、金属材料分野ではマテリアル開発系は世界一と思っています。 ドクター1年の時には東日本大震災も経験しました。私が研究者として残る決断をしたのは国際会議がきっかけでした。私がやっている分野はそれほど広くないのに、世界中から集まった研究者と専門分野の最先端の話をできることに大きな喜びを感じたのですね。

形状記憶効果の実現には、拡散をしない相変態が必要です(水が水蒸気になるのは拡散する相変態)。つまり金属の原子同士がつながったまま結晶構造が変わることで、これは「マルテンサイト変態」ともいいます。 形状記憶合金はある温度以下で変形しても、その温度(変態点)以上に加熱すると元の形に戻る性質があります。 こうした形状記憶合金を研究している中で、非常に特異なマルテンサイト変態を発見したのです。これは冷却したときに形状記憶効果を発現するもので、イメージとして例えるならば、氷をもっと冷やしたら水に変化したような現象です。そして「リエントラント・マルテンサイト変態」と命名しました。

当時貝沼先生の研究指導で、ニッケル系合金を使ってこの現象を出すことを狙っていました。先生は「世界を驚かせようよ」とおっしゃっていました。ただニッケル系合金ではうまく結果が出せなかったのですが、偶然にも別の学生さんが怪しい挙動を示したコバルト系合金を使って、試しに冷やしてみたら発現したのです。それで私が引き継いでコバルト系で実験を重ね、2013年に論文として発表しました。マルテンサイトでこれが起きるのは、おそらく初めてのことだと思います。

物理現象は常に生活の身近で起きているのですが、実は正確には理解されていないことのほうが多いといえます。科学者は常に気づきへの準備をしておく必要があり、知識に対しての好奇心も大事だと思っています。現場ではおかしいと思っても、分野違いの現象だとスルーしてしまいがちです。 近年は設備や機材の進歩で検証ができるようになったことも大きいですね。今は大学のスーパーコンピューターを利用してシミュレーションし、組み合わせや組成などの目星をつけたりもしています。それを実験で検証するようなイメージですね。

(図/写真1)

金属用生体材料の積層造形に挑戦するため、科研費の国際共同研究加速基金を利用して、2023年にはドイツ・カッセル大学に滞在しました。写真に写っているのは、左からThomas Niendorf教授、Philipp Krooß博士、Marius Horn氏、そして右が私です。

取材風景
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