特異な挙動を示す
新たな形状記憶合金の開発と応用


形状記憶合金では、応力を加える(変形させる)と熱を出し、応力を取り除くと熱を吸収します。これは弾性熱量効果といいます。しかし、リエントラント変態する合金では、低温側で応力を加えたとき、更に冷たくなるという逆転の現象(新規弾性熱量効果)を確認しました。 これを応用すると、この合金が加圧によって熱を出したときに水を通して排熱し、圧を除いて冷えたときに水を冷却するといったように、エアコンなど熱への利用が考えられます。 現状のエアコンや冷蔵庫、冷凍庫は、温室効果のとても大きなガスを冷媒に使っているので、今後機械屋さんがうまく設計してくれれば、今のエアコンなどよりも効率もよく、地球温暖化対策にも貢献するシステムの開発が期待されます。

また別の研究では、同じコバルト系合金(コバルトクロムアルミシリコン)を使って、医療用金属材料の開発をしています。 これはこの合金の持つ超弾性効果を利用しています。超弾性効果は形状記憶合金が示す一つの特性ですが、曲げる力を取り除くとまたもとの形に戻るという性質を持ちます。

そしてこのコバルト系合金で、これも偶然に近いのですが、とても大きい超弾性ひずみ(17%)が出てきたのです。さらに調べたところ、耐食性も耐摩耗性も高いという結果が出ました。 この性質により、ボーンプレート(骨折などした骨を固定するもの)に応用することが可能になります。ほかにもガイドワイヤーや血管ステントへの利用も可能です。 現在でもこれらの医療材料にはニッケルチタンの合金が使われていますが、超弾性ひずみが8%くらいしかなく、アレルギーを起こす人もいます。ですから様々な面で優れた性質を持つコバルト系合金が、従来のニッケルチタンから置き換わることが期待されます。

さらに別の研究では、パラジウム系の形状記憶合金の開発をしています。これは磁場に応答して形状記憶効果が表れるタイプの合金です。 形状記憶合金は可逆的なひずみを利用して、センサーやアクチュエーター(エネルギーを物理的な動きに変換する装置)にも利用されるのですが、磁場応答の場合、温度由来より高速な駆動が可能になります。しかも従来のニッケル系合金よりもエネルギーロスを100分の1に抑えることに成功しました。 そして低温環境での高速な磁場駆動を実現することもでき、これは水素社会に必要な極低温環境下でのアクチュエーターなどへの応用が期待できます。

東北大学は垣根を超えた横のつながりがあるのが強みだと思っています。大学でも横断的な接触交流や学際研究を推進しています。自由に研究できる風土もあって、地域との連携もあり、研究の環境としてはとてもいい所だと思っていますね。

(図/写真2)

恩師の貝沼亮介先生(右)と私です。研究室の中では朝と午後に2回のコーヒーブレイクがあります。参加は自由ですが、フラットに話し合って考え方をぶつけ合ってその中で新しいアイディアが生まれます。

取材風景
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