異分野の研究者とも意見交換・議論を積極的に
学知が交わるところに、創発の萌芽あり
博士課程修了後は民間企業への就職も視野に入れていたのですが、研究者/大学教員の道に進みました。学部2年生の時に接した師の言葉―君たちが大学教員にならなかったら、一体誰が日本の学生を教え導くのだーに応えたことになっていますね。現在の立場に至るまでには、研究という営為を楽しめたこと、そして幸いにも大きな成果を上げられたことが背景にあります。
学生さんを指導するに当たっては、「はじめの一歩は一緒に」をモットーとしています。いくら理論を学んでも、実際に装置を組み立てて動かす段になるとわからなかったり、戸惑ったりすることが多いと思います。ですから実験のスタートは伴走しますが、あとは自分で考えながら進めてほしい、という指導方針です。実験の目標は決まっていますが、手段は自由なのです。装置にどんどん触ってみましょう。新しいアイデアや治具を試してみよう。でも、データ(信号)が出なくてお手上げとなったら……最後は私がなんとかします(笑)。 卒業/修了後はそれぞれの道に進むわけですが、それがどんなフィールドであっても、自身を力強く支えてくれる能力を、研究活動を通じて養ってほしいと願っています。それは、本質的な課題を抽出し、仮説を立てて前進する力。失敗をデータとして扱い、長期視点で粘り強く改善し、短期成果が出なくても思考を止めないという「研究的レジリエンス(復元力、粘り強さ)」です。
また、多様な経験も自分の可能性を広げる推力となってくれます。私の場合、Visiting Scientist(客員研究員)として滞在したロスアラモス国立研究所(米国ニューメキシコ州)での日々がとても得難いものでした。かつて軍事・機密研究の中核であった同研究所も現在は、さまざまな分野の先端科学技術を取り扱う世界トップレベルの研究機関として知られています。それでも「すべての建物内部の撮影は禁止」「特定のエリアに入るにはバッジ(アクセスカード)が必要」など、秘匿性の高い研究を行っていたころの名残がそこここにあります。ロスアラモスで受け入れてくれたCristian Pantea博士(写真)とは、私が帰国した後も研究交流を続けており、国際会議では毎年のように共同でセッションをオーガナイズしています。また同研究所で出会ったBlake Sturtevant博士は、日本国内で大きな事件や災害が起こるとすぐに安否確認の連絡をくれます。国際的な研究者コミュニティに身を置くということは、研究上の新たな気付きや視野の拡張をもたらすだけでなく、研究者同士の人間的なつながりや温かな交流が育まれるという点においても大きな意義があると感じています。
近年は、各種学会や分野横断的なワークショップなどの委員・幹事を務める機会が増えました。最新の研究成果は、学会の発表を聴講したり、論文を読んだりすればキャッチアップできますが、新しい刺激やアイデアを得るという意味では、分野かかわらずたくさんの研究者と直接会って話をすることに勝るものはない、と感じています。専門外の話でも面白いと感動しますし、自身を奮い立たせるモチベーションにもなります。こうした学知の交差点が、創発(エマージェンス)の出発点になるのだと思います。
今後の目標は、ピコ秒超音波法の社会実装です。このアイデア自体は1984年に提案されています※1。しかし現時点では、産業界などの量産工程で広く用いられているわけではなく、半導体や先端材料の研究・開発段階において、薄膜や界面の力学特性を非破壊で評価できる手法として活用されています。つまり製造現場ではなく、技術選別・材料評価の上流で使われているのですね。使い勝手や価格など、まだまだハードルがありますが、この方法でしか測れないものもあります。目には見えない薄膜を、光と音で読み解くー究極の計測方法を目指した私の挑戦は続きます。
※1 Coherent Phonon Generation and Detection by Picosecond Light Pulses
— Christian Thomsen, J. H. Strait, Z. Vardeny, H. J. Maris, J. Tauc —
Physical Review Letters Vol. 53, No. 10, pp. 989–992, 1984
The joint ASA/ASJ meeting(アメリカ音響学会、日本音響学会共催、2025年12月1日~5日、米国ハワイ州ホノルル)にて。「右がCristian Pantea博士。ロスアラモス国立研究所で出会って以来、公私ともに交流が続いています」。左が長久保先生。





