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巻き爪矯正デバイス(ONCE Clip™)の開発

爪が肉に食い込むために生じる痛みに苦しむ“巻き爪・陥入爪患者”は、国内だけで15万人(推定潜在患者は1000万人)もいる。しかし、外科的手術以外に手軽に行える治療手段が無く、手術に至る前に行える有効な予防策が切望されている。そこで、我々は、自ら開発した新型Cu-Al-Mn系形状記憶(超弾性)合金を本用途に適用した。

  • 重症巻き爪患者
    重症巻き爪患者
  • 重症陥入爪患者
    重症陥入爪患者

図1 典型的な巻き爪および陥入爪

図2に開発したデバイスの概観を図3にその装着法を模式的に示す。デバイスの形状は、カギツメを中央部、両端部、全面に付ける3タイプに分けられるが、爪の先が比較的短くても適用できるのは、図2の真中に示す両端部のタイプである。このタイプでは、図3(b)に示すように、爪の先にクリップ板を上から被せるように装着する。ここでのポイントは、一体もののクリップ全体が優れた超弾性効果を示す点にある。

  • 図2 矯正デバイス(ONCE Clip™)の外観
    図2 矯正デバイス(ONCE Clip™)の外観
  • 図3 装着法
    図3 装着法

なぜ、超弾性合金なのか?

超弾性効果は、金属がまるでゴムの様に全体の長さの10%程度も伸び縮みする性質である。この時の伸び(歪み)と発生する力(応力)の関係は、通常のバネで見られる直線関係(フックの法則)に従わず、図4に示すようにある大きさの力で一旦平らになる。この性質は、例えば5%伸びていても10%伸びていても戻そうとする力が等しいことを意味している。この性質を今回の様な矯正デバイスに利用すると、装着後少しずつ爪の矯正が進んで平らになってきても、曲がっていた時と等しい強い力で平らにしようとするので装着時間とともに矯正能が低下することは無い。また、カギツメ部分も超弾性効果を有するので、クリップの着脱を繰り返してもカギツメのクリップ力が殆ど低下しない。

図4 超弾性合金の機械的特性図4 超弾性合金の機械的特性

Cu-Al-Mn合金は、高加工性のほか、環境温度に対する変形力の変化が小さいという特徴を有する。図5は、Cu-Al-Mn合金とTi-Ni合金の各温度での超弾性特性である。実用合金であるTi-Niに比較し、Cu-Al-Mn合金は温度が変化しても変形力は大きく変化しない。図6は、Cu-Al-Mn合金、Ti-Ni合金及び爪の、温度に対する曲げ荷重変化率を示す。爪は温度が高くなると変形力は低くなるのに対し、Cu-Al-Mn合金、Ti-Ni合金は変形力が高くなる。この変形力の差が大きいと、爪に違和感を感じたり、爪が割れたりする恐れがあるため、Cu-Al-Mn合金は温度に対する変化がより小さい点で有利である。

  • 図5 Cu-Al-Mn合金とTi-Ni合金の各温度における超弾性特性
  • 図5 Cu-Al-Mn合金とTi-Ni合金の各温度における超弾性特性

図5 Cu-Al-Mn合金とTi-Ni合金の各温度における超弾性特性

図6 Cu-Al-Mn合金、Ti-Ni合金、爪の温度に対する曲げ荷重変化率性
図6 Cu-Al-Mn合金、Ti-Ni合金、爪の温度に対する曲げ荷重変化率性

デバイスの矯正効果

本デバイスの臨床例を図7に示す。陥入爪により肉芽を持つ患者に装着したが、1週間程度で肉芽が小さくなり、6週間ではほぼ完治している。上段の前方からの写真を見てわかるように、爪の丸みが小さくなり平坦化している。本デバイスで、痛みが低減し肉芽がおさまるのは、図4の右に示すように、傷口に触れていた爪端部がデバイスの力で持ち上げられ、傷口から外れるために傷口の治癒が可能になるからである。なお、カギツメを挿入するのに必要な長さまで爪が伸びている場合には、本デバイスの着脱に伴う痛みは殆ど無い。

  • 図7 矯正デバイスの臨床例
  • 図7 矯正デバイスの臨床例
  • 図7 矯正デバイスの臨床例
  • 図7 矯正デバイスの臨床例
    装着前
  • 図7 矯正デバイスの臨床例
    1週間後
  • 図7 矯正デバイスの臨床例
    6週間後

図7 矯正デバイスの臨床例

実用化

Cu-Al-Mn超弾性合金により実現した巻き爪・陥入爪矯正デバイスは、仙台赤十字病院皮膚科や東北大学病院皮膚科などで臨床評価を行い、2011年3月に企業から商品化されました。