金属プロセス工学
金属プロセス工学
金属プロセス工学

金属プロセス工学講座

教授
三木貴博

金属材料研究の現在地は元素戦略
製鉄プロセスにおける資源循環で脱炭素を目指す

 

金属資源を全量輸入する製鉄大国・日本
日本の金属資源自給率は0️%で、レアメタル・ベースメタルともに100%を輸入に頼っています。世界における金属の生産トップ5は、上から鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、鉛の順で、生産量でいえば鉄が年間18.7億トンで2位のアルミニウムは0.6億トン。その生産量には31倍もの開きがあり、圧倒的に鉄のニーズが高いことがわかります。
現在は年間生産量の約半分が中国で作られ、2位にインド、3位に日本と続き、日本では年間約1億トンの鉄を生産。質の高い鋼材を生産できるその技術力をもって、日本の鉄鋼業は世界にインパクトを与え続けており、大型インフラに必要不可欠な鋼材を中心に世界中に輸出されています。
一方、製鉄プロセスで排出される温室効果ガスの削減やカーボンニュートラルへの加速は無論のこと。製鉄プロセスやリサイクルプロセスにおいて、徹底的な効率化で純度の高い金属を生成し、できる限り無駄(ごみ)スラグを出さないことは、今や命題ともいえるでしょう。

さらなる効率化を目指す金属リサイクルの今
金属材料の循環システムは、天然資源から金属部品・製品を作り、それを組み上げて車、船、建物などの大型製品を製造、例えば自動車の場合15年ほどの消費で一部を除きほとんどの部分はリサイクルされ別の金属として生まれ変わっています。
天然資源の全てを輸入に頼る日本において、リサイクルを経た二次資源の有効利用は、消費エネルギーや環境負荷の面だけでなく、コスト面でも非常に重要です。
さらに鉱石とリサイクル材を合わせ、高純度の金属の生産を目指しますが、それには不純物の除去が不可欠。質量保存の法則によって元素をマジックのように消すことは出来ず、何らかの方法で元素を分離させなければなりません。これを元素分離といい、三木研究室では、特に異相に元素(不純物)を移動させ分離させる方法を研究しています。

溶鉄中の不純物をいかに取り除くか
不純物除去の精度によって、製造できる金属の純度にも差が生じます。酸化しやすい元素や蒸発しやすい元素は除去しやすいため、鉄よりも酸素に対する化学親和力の高い元素を添加することで、酸化物を生成させて除去する溶鉄中の不純物酸素除去なども方法のひとつであり、現在の主流になっています。
いずれにしても温室効果ガス排出を抑えつつ、社会・経済に不可欠な金属材料を生産し、うまく元素循環させること目的に研究を進めています。

Projects

溶融金属からの不純物除去

三木研究室は、東北大学の金属材料研究で最も歴史のある第一講座の流れを汲んでおり、鉄鋼をしっかり作ろうというところからスタートしています。当時は天然資源の鉄鉱石からいかに高品質の鉄や鋼を精製するかという研究でしたが、現在はリサイクル後の副産物から不純物を取り除き、さらに高純度の金属をどう作るかという研究に進化しています。
この研究は、天然ではありえない組み合わせで戻ってくるリサイクル後の廃棄物や副産物から、どのように元素分離させるかが一番面白くて一番難しいところです。料理のように感覚やひらめきも大事にしながら、一次資源である原料鉱石、あるいは二次資源である製鉄中の廃棄物や金属循環上の副生物から、鉄鋼やアルミ、銅、亜鉛などのベースメタルを製造・回収するプロセスを物理化学的に研究しています。

製鋼スラグに含まれるリンの回収と二次利用

鉄の不純物の中で特に問題とされるリン。非常に冷たい場所でリンを含んだ鉄を使うとガラスのようにパリンと割れてしまう現象が起こります。実はタイタニック号が沈没した原因ともいわれており、当時は製鉄上、リンを十分に取り除く技術がなかったため、事故が起こったとされます。ときに鉄を脆弱化させてしまうリンを鉄から除去することは鉄鋼において非常に重要度の高い課題でした。
製鉄プロセスにおけるリン除去の技術研究は進んだものの、現在は分離したリンの二次利用を目指しています。リンは肥料や化学製品の原料として需要が高く、二次資源からのリン回収についても研究が進みます。
三木研究室では、毛細管現象を利用した個体液体スラグの分離を行うことで、高リン鉄鉱石を積極利用した鉄とリンの併産をめざしています。ベースメタルの精製や高純度化に関する研究を進め、製鉄上に生まれるスラグやダストなどの副産物の二次資源ポテンシャルを明らかにするとともに、これらからの希少元素を回収するエコプロセスの開発も同時に行っています。

Topics

研究室対抗の駅伝大会

材料科学総合学科では、毎年恒例で研究室対抗の駅伝大会が開催されています。緑豊かな青葉山キャンパスを周回する駅伝コースは、起伏もありなかなかの難コース。三木研究室では、7人の精鋭たちが本番に挑みました。1人およそ2kmを走るコースですが、中にはトレーニングゼロで挑戦する猛者も。沿道からの多くの応援を背に、たすきをつなぎ、走り抜けたメンバーは充実の表情でした。
実は、毎朝5〜6kmのトレーニングを欠かさない三木先生も教授チームの走者として参加。先生にも一際大きな声援が送られました。タイムの良かったメンバーは表彰式で表彰され、副賞の日本酒(一升瓶!)を手にしていました。