相手は融点2600℃超の金属。
トライ&エラーを積み重ねて、知見を構築。
未知の可能性を探索するチャレンジングな材料設計・開発。


私たちは今、融点が2623℃という高融点金属であるモリブデン(Mo)を使った、まったく新しいタイプの超高温材料の開発に取り組んでいます※3。モリブデンとの出会いは1997年、私が海外特別研究員(日本学術振興会)として、オークリッジ国立研究所(米国テネシー州)に滞在していた折のことです。そこではアメリカの国家プロジェクトとしてモリブデン合金の研究が推進されていました。モリブデンは鉄(融点1538℃)より1000℃以上も高い融点を持ちます。実験には、鉄の知見やノウハウが応用できないばかりか、特殊な設備・装置と予算(溶融するために膨大な電力を要する)が必要であり、一研究機関や企業が取り組むには、およそ現実的ではない負担を強いられることになります。モリブデンは、国が主導して資金と人材を集中投下しなければ対峙できない相手というわけです。私たちはそういう手強い金属と相対し、究極の耐熱性を誇る超高温材料を生み出そうとしています。

私たちはこれまでの研究で、高融点金属「モリブデン(Mo)」に「シリコン(Si)」や「ホウ素(ボロン;B)」を添加したMo-Si-B合金が、超高温下で極めて高い強度を発揮することを明らかにしてきました。今後は、モリブデン金属相中に生成しMo3Si金属間化合物やMo5SiB2ホウ化物をさらに改良することで、ジェットエンジンの高圧タービンに無冷却・無遮熱で適用できる新規な超高温材料を創製していくとともに、その超高温特性を解明していくことを研究領域と達成目標に掲げています。

目下の課題は主に3つ。「室温での破壊に対する抵抗力(破壊靭性)の向上」「高温強度の低下防止」「軽量化」です。破壊靭性を向上させるには、モリブデン金属相の体積率を高め、材料組織を適切に制御していくことが必要となってきます。しかし、体積率を高めると高温強度が低下するというトレードオフがあるため、Mo、Si、Bに加えて第4、第5の元素の添加を検討していかなければなりません。Ni基超合金より低い密度を達成し軽量化を図るために、セラミックス相との複合化も視野に入ってきます。

(図/写真2)オークリッジ国立研究所に在籍中、Metals & Ceramics DivisionのDr. C.T. Liuのグループに所属していました。

(図/写真2)「オークリッジ国立研究所に在籍中、Metals & Ceramics DivisionのDr. C.T. Liuのグループに所属していました。写真は1998年の夏、同じグループの大学院生、ポスドク、技官のみなさんとピザのランチバイキングを食べに行った時のものです。中央奥に写っているのが私。一番左は親友のマーク、彼の結婚式の折にはポーランドまで飛びました。右端はメキシコ人のポスドクのイサイですが、私と話す時は必ず最後に『Friend!』と言ってくれました。それが“アミーゴ”の直訳だって気がついた時は『俺も国際人だなっ(笑)』と思ったものです。メンバーの母国はアメリカ、オランダ、ウクライナ、メキシコ、韓国…とまさに多国籍で、本当に視野が広がる良い経験をさせてもらったと感謝しています」。

未踏の材料研究の宿命ともいえますが、私たちの研究は試行錯誤の上に成り立っています。実験で得られたデータを蓄積、体系化し、ひとつの知見へと構築していく…そんな根気と忍耐を基軸とする取り組みの積み重ねです。もちろん多くの困難が伴うフロンティアですが、そこはやり甲斐が約束された地であり、アイデアと努力がブレークスルーを育む豊穣な大地でもあります。研究に共に取り組む学生諸君からは、意欲あふれる斬新な発想が次々と寄せられます。未知の可能性にチャレンジする醍醐味を体感してくれているようで、とても頼もしく思います。

学部生時代、自他ともに認める勉強嫌いでしたが、大学院でまっすぐ実験と向き合うようになって、研究の面白さにすっかり魅了されました。「どうなっているのか/いくのか」「その先が知りたい」という純粋な探究心に突き動かされたともいえます。私たちは今“究極の耐熱性を持つ超高温材料”という非常にタフな研究テーマと格闘していますが、その駆動力となっているのは、未知の地平を見たいという情熱と知的好奇心に他ならないと感じていますし、そうした志を抱き続ける限り、どんな険しい道でも開けると信じています。

※3
吉見准教授がリーダーとなって推進する研究プロジェクト「究極の耐熱性を有する超高温材料の創製と超高温特性の評価」は、総合科学技術会議によって制度設計された「最先端・次世代研究開発支援プログラム」に採択され、平成23年2月10日から日本学術振興会を通して助成されている。
取材風景
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