どんなに優れた材料も、用途や目的に適うカタチにして
初めて“使える”ものに。現代社会を支える接合技術。


「材料」という言葉自体は、日常生活のいろいろな場面で使われますが、こと学問・研究分野になると少しイメージしにくいかもしれません。この世界は―というと少し大仰な言い方ですが―多種多様な物質によって構成されています。その中でも、特に社会や暮らしに不可欠なもの、現代の利便性や快適性、安全性を支えているものが「材料」です。「石器時代」「青銅器時代」「鉄器時代」という先史時代区分が示す通り、私たち人類は材料の発明や進歩とともに、発展してきました。また近年以降は、材料科学への研究の深まりと知見の蓄積が、革新的な材料を生み出し、産業・経済をさらに振興させる原動力となってきました。

「材料」への馴染みのなさは、初等・中等教育を通じて学ぶ機会がないことにも起因しているかもしれませんね。かく言う私も、大学受験までは「材料」という学科があることも知りませんでした。どの学部に進むか決められずにいたのですが、いずれにせよ理系進学を考えていたので、物理と化学の勉強に力を入れていました。その姿勢を評価してくれたのかどうかわかりませんが、進学指導の先生から「東北大学工学部の推薦入試を受けてみては」という勧めがありました。

推薦入学は、ちょうど私の大学受験の年から導入された制度で、指定校から各1名の推薦枠、学部全体で25名の受け入れという狭き門だったと記憶しています。東北大学は、本多光太郎博士のKS 磁石鋼に代表されるように材料研究分野で非常に有名です。さらに私は、鉄道好きでもあったので、車両の軽量化や強度向上に大きな役割を果たす材料という存在に興味を抱くようになりました。

推薦入試の面接では、材料研究の社会的意義と貢献について、自分の考えを述べました。もちろん論理的に練られつくしていない箇所はあったと自覚していますが、面接官の先生から「君はわかっていない」とばかりに反論されました。それに対して納得いかず、またもや持論をぶつける……という若さあふれる(!?)展開になり、「(合格は)無理だろう」とすっかりあきらめていました。合格の知らせを受けた時は、これで母校の後輩たちに道をつなぐことができた、とほっとしたのを覚えています。

いささか受動的な専攻選択でしたが、入学して、材料を学ぶほどに、その持てる可能性や潜在力の大きさ、社会に与えるインパクトを理解することができました。材料研究はとてもおもしろいと開眼。修士課程修了後のキャリアプランとしては、鉄道会社への就職も視野に入れていたのですが、さらに研究を深めてみたいと思い、助手として大学に残ることを選択しました。尊敬する桑名武先生(1996年退官、東北大学名誉教授)、粉川先生(現・教授)がおられたことも大きかったですね。しかし、この時点ではまだ研究者としての身を賭(と)し、探究するテーマを見出せずにいたのです。

(図/写真1)ロッキー山脈のすそ野に広がる広大なキャンパスの様子

(図/写真1)「『30歳までには海外大学で研鑽を積んだ方がいい』という粉川先生の薦めもあり、国際会議や学会で、論文の別刷りを配ってはアピールし、受け入れてくれるところを探しました。2003年から1年間滞在したブリガムヤング大学(米国ユタ州)は、鉄鋼FSW研究の草分けとして知られています。帰国後も長らく研究交流が続いており、東日本大震災の折は、実験装置が使えなくなった本研究室の学生を受け入れてくださいました」。写真は、ロッキー山脈のすそ野に広がる広大なキャンパスの様子。

材料は、用途や目的に適うカタチにして初めて“使える”ものになります。そこで鍵となるのが、材料をくっつける技術です。接合技術には「溶融接合」「ろう接」「固相接合」「機械的接合」「接着」などがあり、それぞれには数種の手法が存在します。多くの方がイメージする金属接合といえば、遮光メガネや防災面をつけて火花を散らしている溶接でしょうか。熱で溶かした“はんだ”※1を接着剤として用いるはんだ付けは「ろう接」の一種であり、電子工作をする方にはおなじみですね。リベット、ボルトとナット、ネジなどで締める「機械的接合」、また接着剤を用いる「接着」は、産業界だけではなく、暮らしの中でも用いられるポピュラーな方法です。

「固相接合」は、溶接やろう接のような溶融を伴わない手法です。そのひとつ「摩擦攪拌接合Friction Stir Welding(以下FSW)」は、1990年代初頭に英国TWI社(The Welding Institute)が考案した技術で、従来の接合方法にはない優れた特性を持っており(後編で詳述)、産業界から大きな注目を集めました。「これ、面白そうだから」と粉川先生からFSWで接合したアルミニウム合金の試験片を渡されたのは1998年3月のこと。これが、研究者としての道を決定づけるFSWとの出会いでした。

※1
はんだ:はんだ付けに使用する鉛とスズを主成分とした合金。鉛は、人体や環境に有害なため、近年では鉛を含まない鉛フリーはんだへの切り替えが進められている。
取材風景
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