日本金属学会 第3分科討論会

「スピントロニクスとテラヘルツ光技術は融合するか?」
講演概要


「テラヘルツ光の発生・検出と計測システムの構築:研究開発の現状と融合展開」
 田邉 匡生(東北大学)


 電波と光の中間領域に位置し、周波数としては0.1〜10 THz、波長は30 μm〜3 mmの電磁波であるテラヘルツ(THz)波は発生と検出が困難であった。しかし、最近になり高周波半導体デバイスやレーザ機器の発展により、大学や研究機関だけでなく企業においても研究開発が世界中でなされている。本発表では実用レベルに開発されているTHz光源と検出器をはじめ、それらを光学部品と組み合わせて構築できる計測システムの詳細について、分光・イメージング応用と合わせて説明する。システムの現状を打開することにより展開する融合を議論したい。


「メタマテリアルを用いたテラヘルツ波の制御」
 金森 義明(東北大学)


 動作波長以下の微細金属構造で形成されるメタマテリアルは自然界の物質が示さない新奇な光学特性を持ち、これまでの光操作技術の限界を打ち破る新たな人工光学材質として注目されている。光学応答はメタマテリアルの形状や寸法に依存し、構造設計により光学特性を制御することができる。近年、THz波技術の進展が目覚ましい。しかしながら,THz波に適した光学材料が乏しいため,多種多様な光学素子の実現が困難である。従って,THz帯におけるメタマテリアルの開発が重要となる。今回、当研究室で開発してきたTHz波用メタマテリアルを中心に話題を提供する。


「磁性体の超高速磁化ダイナミクスの最近の研究」
 高橋 有紀子(物質・材料研究機構)


 BeaurepaireらのNi膜の超高速減磁の報告(PRL76, 4250 1996)は外部磁場による磁化制御よりも1000倍以上早い磁化応答であっため、多くの研究者が磁化の超高速制御の可能性について検討を始めるきっかけとなった。最近ではフェムト秒レーザーの性能が上がり安価になってきたことから、磁性分野でも光と磁性の相関に関する研究が増えている。当初はフェムト秒レーザーでスピンの歳差運動を励起し材料特性を評価する研究が多かったが、最近ではフェムト秒レーザーを照射することによる特性変化を積極的にデバイスへ応用しようとする研究へと変化しつつある。ここではそのような経緯を振り返りつつ、磁性体THzデバイスの可能性について議論したい。


「超短パルスレーザー光による金属磁性薄膜を介したTHz光発生と時間分解計測」
 塚本 新(日本大学)


 近年磁性体分野におけるTHz光研究が盛んになりつつある。そのような背景において、超短パルス光を用い、電界振動が数サイクル程度の超短パルスTHz光生成や、そこから得られる物性情報検討に関する報告も行われている。本報告では、関連研究にも触れつつ、フェリ磁性薄膜を対象として実施した、放射THz光の時間分解計測を用いた超短パルスレーザー光照射による広帯域THzパルス光の生成に関する検討や、Pt超薄膜とのヘテロ金属界面構造において、超短パルスレーザー光照射による逆スピンホール効果を介した電流誘起現象に基づくと考えられるTHz光生成の検出等につき紹介する。これらは、新分野THzスピントロニクスを切り拓くアプローチにもなり得るものと期待される。

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