本研究に関する公募は終了致しました。


公募要領

ATP(アデノシン三リン酸)は生命系のエネルギー代謝の中心を占め、機能が明らかな約3000種の酵素のうち、 450種まで がATP駆動タンパク質である。しかし、そのエネルギー媒体としての物理的基盤(「ATPエネルギー」の実体)が未確立のため、化学-力学エネルギー変換の分子論は、未完成である。本領域は、溶液化学・生物物理学・一分子生理学の融合により、分子レベルの機能論・構造論に立脚した新しいエネルギー論の構築を目指す。研究項目A01、A02、A03によって、「ATPエネルギー」の実体を解明するとともに、ATPと相互作用するタンパク質の機能発現における水の役割の解明に取り組む。加えて、有力手法のATP系への展開や斬新な方法によるATP駆動タンパク質の水和測定、あるいは地味でも重要な測定や理論研究(たとえば、水-有機溶媒混合系におけるATP加水分解反応の熱力学量、同反応系における反応物質の酸解離定数などの基本量の測定やデータベース構築)等、領域研究として明確に位置づけられる2年間の公募研究を募る。一年間の研究は応募の対象としない。単年度当たり(1年間)の応募額700万円を上限とする研究を5件程度、200万円を上限とする研究を15件程度予定している。なお、研究計画の立案にあたっては、領域ホームページ(http://www.material.tohoku.ac.jp/atpwater/index.htm )を必ず参照すること。

(公募項目)
A01 ATP加水分解に関わる水和の構造と自由エネルギー
A02 ATP駆動蛋白質とヌクレオチドの相互作用機構
A03 ATP駆動蛋白質の機能発現機構

公募研究のスコープ
本新学術領域研究の主眼は、これまで独自に展開されてきた溶液化学・統計物理学分野と生物物理学・生物化学の分野を融合し、ATPのエネルギーとATP駆動タンパク質機能発現における水(溶媒)の役割に焦点を絞った研究の実施である。一言にATPといっても、計画研究だけではカバーしきれない研究課題は多数ある。例えば、国際生化学分子生物学連合に登録されている約3000種の酵素のうちATPの関与が確立されている反応は450にもおよぶ。その中には、本領域基盤形成にとってユニークかつ有用な反応系が潜在している可能性がある。これまでにそのような系をエネルギー論とは異なる立場から解析してきた研究者や、さらには、多種多様な方法で堅実にATP駆動タンパク質以外のタンパク質・生体関連物質の構造機能相関の研究を進めている研究者が、その実績に基づいて、エネルギー論・水和解析を中心においた研究企画を提案することを歓迎する。
 また、水(溶媒)と溶質の相互作用は多種多様にわたるため、その解析には、多くの基本的物性量の評価データが必要である。これまでの溶液論の実験、理論研究によって莫大なデータベースが存在するが、特に本研究における実験条件の設定や理論計算においては、直接利用できるデータが不十分である可能性も否定できない。そこで、本領域の目指す「ATPエネルギーの概念の確立」につながる小さくても光る基礎データの蓄積を着実に進めている研究者の応募を期待する。
 このように、本領域は、単なる高精度、微視化といった量的前進を押し進めるものではなく、わが国が世界をリードしている2つの分野の融合により、新たな方法論を展開して、世界に先駆けて生命科学の基本的命題「ATPエネルギーの概念」の確立を目指す。公募研究は単独の研究課題ではなく、採択後に計画研究との緊密な連携のための調整を行い、領域全体をバーチャルラボとして推進する。具体的な公募テーマ例は、以下の通りである。
目指すところ
・タンパク質環境を模倣した種々の溶媒中での酸塩基平衡・反応の精密測定
・水とcosolvent混合溶媒中のATP分解反応における熱力学データ測定、ATPase活性測定
・溶媒効果を取り入れた高精度量子化学計算
・ATPに関連したタンパク質への基質結合に関するミクロおよびマクロな分析化学的アプローチ
・タンパク質・基質周囲の水分子の運動状態の物理的計測:中性子線散乱、超音波、赤外分光、Raman分光、非線・ 形分光法等による水和状態解析
・レセプターとリガンドの結合過程に対する水分子を陽に取り込んだ理論モデル
・生物情報科学的手法に基づくタンパク質およびタンパク質会合体の立体構造発生法
・タンパク質水和状態に摂動を加える方法の探索
・極限環境微生物(好塩菌、好酸菌、好アルカリ菌、好熱菌、好圧菌、溶媒耐性菌など)におけるATP分解活性の溶媒環境(塩濃度、pH、高温・低温、高圧、有機混合溶媒)への依存性
・水分子の粒子性を考慮したゆらぎから仕事を取り出す理論的研究
・コロイド間や表面間の溶媒誘起力