高耐食材料が拓くマルチマテリアル化

 車が軽くなると燃費が良くなります。重いカバンを持っていると、すぐに疲れて長く歩くのは大変ですが、軽いと楽なのと同じです。それに、車体が軽いと、遠心力が小さくなるので急カーブも曲りやすいし、危険を察知した時に急停止することもできます。Smart Carにとっても燃費と運動性能は重要ですから、車体を軽くすることは大切です。マルチマテリアル化とは、鉄などの重い材料と、軽いアルミニウムやカーボンを組み合わせて、自動車などを超軽量化する技術のことです。衝撃などの大きな力が加わるところは重いけど強い鉄で作り、それ以外のところは軽い材料を使います。

 マルチマテリアル化は、簡単なように思われます。しかし、鉄とアルミニウムのように、イオン化傾向の違う金属を組み合わせた部分に、結露などで水滴が生じると、イオンになりやすい金属だけが腐食(溶解)してしまいます。鉄も強度を高めた特殊な超強度鋼の開発が進められていますが、板厚を薄くして軽くして使うので、腐食すると短時間でボロボロに穴があいてしまいます。安全で快適なSmart Carにとって、腐食しない高耐食材料の開発はとても大切です。

 私たちの研究室では、鉄に炭素を多量に添加すると、鉄が腐食しなくなることを見出しました。メタンと水素ガスを混合した容器内で、鉄の表面で放電を行うと、ガスがイオンと電子に電離してプラズマ状態になります。プラズマをうまく使い、鉄に炭素を短時間で多量に添加する方法を研究しています(写真1)。また、鉄と炭素は電気陰性度が異なるので、炭素を添加すると鉄原子周囲の電子密度が大きく変化することも分かってきました(写真2)。金属の電子状態と化学的性質の関係が解明できれば、炭素や窒素などの私たちの身の回りに存在する安価な元素を使って、いろいろな金属の耐食性を飛躍に向上させることができるかも知れません。鉱物資源を浪費しない未来社会をつくることも、材料科学の使命です。

プラズマによる鉄の高耐食化処理(写真1)
金属鉄内部の電子密度のコンピュータシミュレーション(写真2)