教科書に書いてある内容が
目の前で再現
実験の面白さに心を奪われた
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自分は理系だ、と気付いたのは中学生の頃でした。理科の授業で行う実験が特に楽しかったです。よく覚えているのはスチールウールを燃やす実験で、目の前で鉄が燃えるのを見てすごく面白い、と感じました。教科書に書いてある内容を、実際に自分で確かめられることに興奮しました。思い返せば、高校時代も、物理、化学が歴史など文系の教科よりも得意で、純粋に勉強が楽しかったということがあります。高校で、東北大学を勧めてくれた先生がいらして、それは東北大学を進学先として考える大きな後押しになりました。高校3年になって東北大学工学部への受験を決めましたが、理由は物理や化学が好きだったことと、ものづくりに興味があったこと、そして、やりたいことがはっきりとは決まっていなかったことがあります。「材料」は、あらゆる工業製品の基礎となる部分なので、将来ものづくりに携わりたい私に、必ず役に立つことが学べると考え、材料科学総合学科を志望しました。
学部の授業では初め、鉄鋼、磁性材料、生体材料など、幅広く学びました。覚えること、知らないことが多くて確かに勉強は大変でしたが、興味があって入った学部ですから、もちろん、つまらないということはありませんでした。友達にポイントを教えてもらったり、先輩にアドバイスしてもらったりして学びを進めました。研究室は金属材料研究所(※)の非平衡物質工学研究部門の加藤研究室を選びました。配属された後は、「金属ガラス」という材料の研究を行い、その内容は新しい材料を探索するというよりも、その材料をどう加工すれば、何に役立てられるのか、という部分にフォーカスしたものでした。ガラスは非晶質で、金属ガラスはそのガラスの特徴をそなえ、つまり結晶構造をもちません。金属ガラスはアモルファス金属の一種であり、金属で本来ある原子の配列がないため、より細やかな加工、ナノレベルのデザインが行なえます。利用例の一つには、他の材質と比して高強度を期待できる点からゴルフクラブのヘッドがあります。
修士論文のタイトルは「金属ガラスの三次元構造インプリント加工とそのリチウムイオン電池負極集電体への応用」でした。自分が行った研究について達成度をいえば、6割程度といったところでしょうか。自分が得たい特性はなかなか得られず、やはり研究はそう簡単に思い通りにはいかないものです。それでも、研究を進める中で、リチウムイオン電池も、金属ガラスも自分でつくる。実験に必要なものをいったん形にして試してみるというサイクルは実に楽しい。出てきた結果が思い通りでなかったら、どうしてこうなったんだろうとたくさん考え、やり直しますし、これだ!という成果が得られれば、それは本当に飛び上がるほどうれしいものです。研究は“ちょっとずつ”の積み重ねです。基本的には、だんだんと自分の得たい結果に近づいていくものだと思います。
※東北大学金属材料研究所。略してKINKEN(金研)と呼ばれる。物質・材料研究分野の中心的役割を担う研究所。
韓国の学生と学術交流重ねる
互いの文化や趣味の話も盛り上がった
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ちなみに、私は学部生時代、材料科学分野での国際学術交流教育プログラム(※)として展開されている、韓国の浦項工科大学校(Pohang University of Science and Technology, POSTECH)で材料学を学ぶ学部生と、東北大生の学術交流会に参加していました。年に一回、どちらかの大学へ実際に行き交流会を開催するのですが、毎年勉強のことはもちろん、互いの国の文化の話や、趣味の話で盛り上がります。他にも、普通の観光ではまず行かない海外の製鉄所の見学など、貴重な体験もできました。多いときは40人ぐらいが参加し、いろんな話をしたり、聞いたりすることに大いに刺激を受けました。私はカメラが好きで、カメラを持っていったことがあるのですが、POSTECHの学生にもカメラ好きの人がいて、カメラの話で盛り上がったのも良い思い出です。
※材料科学分野での国際学術交流教育プログラム。本プログラムを通し、日韓両方の学生が英語力、企画・交渉力=コミュニケーション能力、国際感覚に加え、材料科学の専門分野について調査、発表する能力を向上させることを目的とする。2001年から開始。
大学はイベントごとが盛んで、それも楽しみの一つでした。私の所属していた加藤研究室では、年に2回研究室内で2チームに分かれて行う運動会がありました。近くの体育館を借りて、学生から先生方までみんなでバスケットボールや卓球などいくつかの競技で競います。私は運動はあまり得意ではないのですが、みんなで盛り上がれるイベントだったのでとても楽しかったです。修士2年のときはコロナもあり開催できなかったのですが、この間3年ぶりに開催できたと聞き、こういったイベントも徐々に戻っていくのではないかなと思います。ちなみに運動会は学生主体で開催していました。そしてもちろん、全員参加です。たまには体を動かそう、研究室内で交流を深めようといった狙いがあり、それぞれの、普段の研究では見られない一面が見られ、学生だけでなく、先生方からも好評を博していたように思います。運動会が終わった後の打ち上げは、いつも大きな賑わいを見せたものです。
ヒロセ電機は技術者が幅広く
営業から生産まで関われることが魅力
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現在、私はヒロセ電機株式会社で働いています。当社は、つなぐための電子部品・コネクタのメーカーです。当社の開発したコネクタは、スマートフォンやワイヤレスイヤホン、医療機器やFA機器、自動車など、様々な分野で使用されています。今、私は技術本部自動車事業部に所属し、コネクタの設計開発を行っています。部署名からも分かる通り、担当しているコネクタは自動車に使われるものになります。ヒロセ電機には、技術者が関わる業務の範囲が広いことに魅力を感じました。設計だけでなく、検証・解析をすること、他にも営業とお客様の所へ行って説明したり、工場と共に生産現場の課題を解決したりなど、営業から生産まで幅広く関わることができます。ヒロセ電機は第一志望でしたので、内定が出たときは本当にうれしかったです。自分がやりたいと思ったことができる環境がヒロセ電機にはあります。今は、お客様の求める性能を満足できるよう、製品の形を考えて3Dモデルを作ったり、図面を書いたり、できた製品の評価を行ったりすることが多いです。実際に技術者として働いてみて自分が設計した製品が完成したときが、一番楽しく、やりがいを感じます。これまでは、製品の、ある一部を設計して課題を解決するということが多いのですが、仮説通りに問題ないものに仕上がったときはうれしかったです。自分で一から設計した製品が出来上がったときは、よりやりがいを感じるだろうと思います。
製品を考えるときに、どうやったら作れるか、どうやったら作りやすいかということを設備の方に相談したり、工場の人に聞いたりということももっとしていきたいと考えています。設計開発だけでなく、営業、生産の立場からも製品を考えられるエンジニアになることが私の目標です。ヒロセ電機には、希望すれば今いる部署と違う部署で数カ月経験を積める社内制度があります。それを生かしていろいろな技術、ものの考え方を吸収していきたいです。以前、実際に営業職の方と一緒にお客様の元へ出向いて、プレゼンテーションする機会をもったこともあります。直接、お客様の声が聞けて、それは大変有意義な経験でした。
材料科学総合学科は自分の
可能性を広げてくれる
設備が充実!
やりたい研究ができる
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ものづくりに必要不可欠な材料の知識を広く身に着けることができるので、将来が具体的に決まっていなくても、やりたいことを見つけたり、自分の可能性を広げたりできることが材料科学総合学科の魅力だと思います。また、今振り返ってみて、勉強も遊びも、大学生活で行ったことで無駄だったと思うものはありません。何かしら自分の糧になっています。目の前のことややりたいことに全力で取り組んで、知識や経験などを身につけてください。何より、東北大学の設備はとても充実しています。やりたい研究ができる環境が整っています。出身者として母校は本当にお勧めできる大学です。