戸村 勇登

「材料」開発で
世の中の役に立ちたい
“TDKに誘電体材料の戸村あり”と
広く知られる存在へ

Alumni Interviews #02

戸村 勇登〔TDK株式会社〕東北大学大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻
博士後期課程 修了

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戸村 勇登

ミクロの世界は不思議がいっぱい
高校3年生の秋に
「材料」の重要さに気付いた

学を好きになるきっかけは、幼少期に科学館や博物館に行ったことにあるようです。当時は昆虫などの生き物や宇宙に興味がありましたが、中学生くらいになると、その興味は次第に直接は見えない不思議の世界へと移っていきました。すなわち、物質の最小単位である原子を扱うような物理や、その原子が組み合わさり様々な分子や結晶に変化する反応を扱う化学の世界です。身の回りにあるもの全てが目には見えない小さな粒からできていて、その組み合わせ次第で多様な性質が現れる、その不思議を解明したいという欲求を当時から抱いていました。その傾向はますます高校で強まったように思います。ただ、どの大学のどのような学部・学科に進むかは、高校3年生の秋くらいまで迷っていました。それがあるとき、東北大学の材料分野の研究は世界的に有名だということを知り、調べるうちに材料への興味が湧きました。そして、身の回りのものは全て「材料」を基にできていているわけだから、良い材料が開発できれば私たちの生活はもっと便利で豊かになるのでは、と思い至りました。材料の研究によってミクロの世界の物理や化学への探求心を満たしながら、社会の役に立つような研究をしてみたいと思い、東北大学への進学を決意しました。

学入学後は、一般教養の他に、専門分野として金属、半導体、セラミックスといったさまざまな材料について体系的に学びました。例えば、鉱石を製錬して金属を取り出す方法や、鉄が主成分のステンレスが錆びにくいのは、鉄よりもイオン化しやすいクロムを添加することでクロムが酸化被膜を形成して表面を保護するから、といったようなことです。東北大学のカリキュラムは洗練されていて、材料学の授業はどれも興味深かったですが、私は電池などに使われる、電気を流すセラミック材料に最も惹かれました。そこで、学部4年での研究室配属では、セラミック材料で優れた成果をあげている、高村仁教授率いる高村研究室の門をたたきました。配属後は、なぜこの材料は電気をたくさん流すことができるのかといった性質の解明や、燃料電池の性能を上げるためにはどのように材料を改良すればよいか、といった研究に取り組みました。

学中で最も心躍った記憶は、国際学会で海外の著名な教授に研究成果を褒めていただいたことです。私は博士後期課程のとき、海外の大学のある著名な教授が構築した実験理論を拡張して、応用展開する研究を行っていました。その成果を国際学会で発表した際、その著名な教授が私の発表を聞きに来てくださり、さらに発表が終わった後に私のもとにいらして握手をしながら、「素晴らしい研究だ」と褒めてくださりました。短い時間でしたが、研究内容についてディスカッションしたり、「こういうところにも気を付けるといい」などと、ありがたい助言も頂戴したりしました。光栄でしたし、自分の研究を誇らしく思った瞬間でもありました。

北大学にいた9年間を振り返ると、入学時と博士後期課程修了時では全く違う人間になったと強烈に感じます。研究を進める中で思ったような結果が得られないことや、独自の研究テーマの着想を得ることができず悶々とした日々もありました。しかし、へこたれずに考え抜いた先には光が見えるものです。あるとき実験で予想もしていなかった“おかしな”結果が得られましたが、高村教授をはじめとする先生方のサポートを受けつつ、その原因を突き詰めることで、オリジナリティのある研究テーマを着想できました。研究の方向性を見いだせない時間が続いた中で、“自分にしかないアイデア“を思いついたときの興奮は今も手にとるように思い出せます。そして、このテーマは最終的に前述の海外の著名な教授に褒めていただいた成果につながりました。そういった苦しい時期や経験とそれを乗り越えた先の達成感を含めた、9年間の全てが私を大きく成長させてくれました。自分には材料についての豊富な知識やスキルがあり、それを基に自分で研究を遂行していける研究者である、という矜持を持てているのはこの9年間があるからです。

TDK内

個々のアイデアを尊重し、
チャレンジ精神を評価する
社風に惹かれた

職に強いということも東北大学の工学系を選んだ理由の一つでした。実際、就職活動は順調に進めることができました。優れた材料技術をもつ企業で刺激を受けながら材料技術者として働きたいという思いを基に、興味のある会社を探すことから始め、時々、高村教授に相談し、助言をいただきました。最終的に複数の会社から合格をいただきましたが、就職活動を進める中でTDK株式会社に最も惹かれて入社を決意しました。TDKは総合電子部品メーカーです。かつては音楽用カセットテープのブランドとしてよく知られていましたが、現在は消費者がTDKの製品を直接目にする機会は少なくなりました。しかし、スマートフォンやパソコン、自動車などの身近なモノにはTDKの多種多様な製品が使用されており、私たちの豊かな社会生活を支えています。また、世界陸上のスポンサーとして社名をご存じの方もおられるかと思います。スポーツと言えば、TDKの製品の一つであるMEMSセンサーはサッカーの国際試合に使用される公式ボールの内部にも搭載されていて、オフサイドの半自動判定などを担うVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)システムを、高精度で運用することに貢献しています。昨冬、カタールで行われたサッカーワールドカップでは、グループリーグでの日本対スペイン戦においても勝敗を決定づけるような場面でVARが使用され、日本の勝利に貢献しました。

TDKは電子部品業界の中でも材料技術のレベルが高い企業であることはもちろん、自分が大学で研究していたセラミック材料に関する専門性とのマッチングがよかったということも志望の大きな理由です。また、工学研究科・工学部のマテリアル・開発系のMAST21(※)をはじめとして東北大学とTDKは産学連携の太いパイプがあり、また、東北大学の学生のみを対象とした会社説明会が開催され、詳しく話を聞くことができました。さらに、TDKには東北大学出身の先輩社員が複数在籍されており、直接相談に乗っていただける機会を高村教授が用意してくださったこともあり、それも志望先の選択を後押ししてくれました。最終的な決め手となったのは、個々のアイデアを尊重し、自主性を重んじる、そして、チャレンジ精神を高く評価してくれる社風です。これらに共感を覚え、この社風ならば在学中に培った材料研究に関するスキルを存分に発揮し、活躍できるだろうと考えました。

※MAST21:工学部材料科学総合学科、工学研究科マテリアル・開発系の産学連携組織

TDKへの入社後は技術・知財本部材料研究センターに配属され、現在、開発に携わっているのは誘電体セラミック材料です。誘電体は直流の電気を通さないという意味においては絶縁体と性質が同じです。大学では燃料電池の材料に使われるような「電気を流す」セラミック材料を研究していましたが、現在、その逆の性質を持つセラミック材料を研究しているわけです。セラミック材料という共通点を除けば両者は全く真逆のものだと思われるかもしれません。しかし、実は材料ごとの電気の「流しやすさ」、あるいは「流しづらさ」を決めている理論は共通のもので、表裏一体の関係にあります。ゆえに、大学時代の経験や知識が大いに今に役立っています。電池材料の研究において失敗例とみなされていた電気の流れづらい材料も、誘電体材料の研究から見れば性能向上の糸口にもなるかもしれません。大学時代に習得してきた知識や、経験の中に、現在の業務に活用できることはないかと、普段から意識しています。

ラミック材料に関する全般的な知識には自信がありますが、より専門的な誘電体材料の分野については、自分はまだまだ学ぶべきところが多いです。それでも近い将来、ここ3年から5年の間には、「誘電体材料で困ったら戸村に聞け」と、社内で頼られるような人材になりたいです。その後は特許を取得したり、論文や学会で誘電体材料開発の成果を発表したりして、社外の方にもTDKの材料技術はやっぱりすごい、と思われるような成果を打ち出したいです。そのためにも自分の足りないところをしっかり把握しながら、この社会人3年目も過ごしていきたいと思います。ゆくゆくは”TDKに誘電体材料の戸村あり”と広く知られる存在になることが今の目標です。

ヒロセ電機

仙台での日々は充実していた
濃密で有意義な9年間を過ごした

職はいわば望み通りの形を実現できましたが、それは博士後期課程まで修めたことが大きいと感じています。東北大学で材料研究に励んだからこそ、より自分のもつリソースに合った、自分のやりたい仕事に巡り合えたという実感があります。大学での生活の中で、どのようなことに興味を持ち、どのような行動をするかによって、その後の人生は大きく変わると思います。自分の場合は、高校生活の終盤で興味を持ち始めた材料について東北大学で学び、やはり材料は面白いと思い、その面白さを追求するため研究に没頭して、社会に出た後も材料の技術者として働いています。好きなことを突き詰めていくのは楽しいですし、やりがいがあります。大学在学中の皆さんにはとにかく自分の好きなことを追及していってほしいと思います。そして、それは必ずしも勉学や学問に直接関係することではなくてもよいと思います。また、友人づくりも学生時代に大切なことの一つです。振り返ってみると、時間を見つけては友人と旅行したり、研究の合間にリフレッシュのためにテニスをしたりしたことも、いい思い出になっています。仙台はエンターテインメントが充実している一方で、豊かな自然や温泉地がすぐそばにあり、いろんなことを存分に楽しめました。友人たちとは今でも連絡を取り合っていますし、良い出会いに恵まれたと感じています。東北大学にはあなたのやりたいことができる環境や同じ思いを持つ人、サポートしてくれる人がそろっています。もし、好きなことややりたいことが見つけられない場合でも、東北大学はさまざまな刺激であふれているので、きっとそれを見つけられるはずです。高校時代の私のように化学や物理が好きだけど、その先で何を学ぶかが決めきれないという方は、東北大学の材料分野について調べてみてください。私と同様に、材料の魅力を発見できるかもしれません。

TDK
TDK株式会社[tdk.com]

戸村 勇登

Alumni Interviews #02