鉄鋼業界のカーボンニュートラルは国家プロジェクト
世界中でカーボンニュートラルの必要性が叫ばれている現在、鉄鋼業界における製錬プロセスには大きな変革が求められています。人類の文明と産業を支える鋼を作るための製鉄法は、数千年の歴史のなかでそのプロセスも変遷してきましたが、効率重視の観点からこの200年弱は石炭由来のエネルギーを多量に使用し、二酸化炭素を大量に排出する高炉法が採用されています。
日本の製鉄技術は、世界でも高水準のエネルギー効率を達成しているものの、地球規模でさらなるCO2削減を目指すために、日本では2050年までにカーボンニュートラルを可能にする技術革新を推進する産学連携の大型国家プロジェクト(グリーンイノベーション基金事業)が動いています。これは2030年ごろまでにそれらの技術を確立し、2050年に実用化を目指すものです。
村上研究室は、このナショナルプロジェクトにも参画し、製鉄における新たなプロセスを提案できるよう日々、知恵をしぼっています。
世界をリードする超効率的な製造プロセスの研究
現状の鉄鋼材料の製造プロセスでは、原料となる鉄鉱石を還元して鉄にするために石炭を蒸し焼きにしたコークスが使われており、これによってCO2が大量に発生します。私たちはこのCO2の排出をゼロ(ゼロカーボン化)にするための、2つの取り組みを研究しています。
ひとつは水素を鉄鉱石の還元材として使う方法、もうひとつは鉄を作った後にできたCO2を回収し、そこから取り出した炭素を固体化し、もう一度製造プロセスで利用するというアプローチです。
どちらがより現実的かはこれから分かってくることですが、ゼロカーボン化の実現に向けて最適な方策を探っているところです。
あらゆる方法で環境負荷を低減する
村上研究室では、素材製造過程やリサイクルプロセスをさらに効率化させ、かつ環境負荷を減らし、さらには鉄の新しい有効利用法を開発するために、「製錬プロセスのゼロカーボン化」「金属資源の高度有効利用」「多孔質材料の製造と利用方法開発」などをテーマに学理形成と産学連携による実用化研究を行っています。
素材産業界への貢献がミッションのひとつであるため、産学連携のプロジェクトが活発であるのも私たちの研究室の大きな特徴です。社会実装を目指す研究のため、素材メーカーの方々と一緒に仕事することも多く、彼らの問題意識を共有し、それを解決するアイデアを提案することが重要です。鉄鋼をはじめとする素材産業界の問題やニーズをわれわれのシーズで解決していくことが、この研究の醍醐味ともいえます。