資源利用プロセス学
資源利用プロセス学
資源利用プロセス学

資源利用プロセス学分野

教授
村上太一
助教
丸岡大佑

“物づくりの過程”を変えれば、環境問題の解決に近づく。循環型/持続的社会に向け、実効性のある“技術”で応える。

 

環境への波及効果の大きい材料プロセスに照準。
温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、熱帯林の減少、生物多様性の減退…現在、地球規模で顕在化・進行している問題の多くは、20世紀後半の産業・経済活動の活発化や人口の急激な増加によるものといわれています。その因果関係にはいまだ不明な点が多いものの、“ 大量生産・大量消費・大量廃棄”といった私たちの営みが、地球環境問題の一因となっていることは論を俟たないでしょう。循環型社会と環境負荷低減の実現のためには、社会や経済の構造・システムに資源循環メカニズムを組み込み、市民一人ひとりの積極的な取り組みによって底支えしていく一方で、真に実効性のある資源リサイクルやエネルギーの有効利用に向け、科学と工学の技術的側面から解決策を模索していく必要があります。
村上研究室では、基幹金属素材に代表される莫大な資源・エネルギーを消費する材料プロセスやリサイクルプロセスを効率化・合理化して、エネルギー使用量を最小限に抑制し(CO2を削減)、現在は使い道のない廃エネルギーを再利用しやすい形に変換したり、環境に悪影響を及ぼす化学物質や重金属を排出させない仕組みを研究しています。また、すでに汚染された環境を効率的かつ経済的に修復(除去・無害化)する方法にも取り組むなど、その研究テーマは多岐にわたっています。

挑むのは“これまでになかった” プロセス・新技術。
村上研究室では、先進的かつ斬新な環境調和型プロセスに挑む「シーズ研究」のほか、企業の環境への取り組みを力強くサポートする「コラボレーション」(共同研究や技術提供)を行っています。そのすべては“これまでになかった”プロセス(物づくりの過程)を構築するもの。たとえば研究装置ひとつとっても担当者自らが設計に加わり、専門メーカーと共に自作した世界にひとつのもの。既製品ではまかなえないケースがほとんどです。こうしたオンリーワンかつダイナミックな研究は、新しいことに果敢に挑むチャレンジ精神と、プロセス全体をさまざまな視座で俯瞰できる“鳥の目”、データ等を注意深く洞察する“虫の目”によって推し進められています。
村上研究室で基礎となる知見は、物理化学、化学工学・反応工学、金属工学、無機・有機化学など広範にわたります。それらの集合領域と研究者の“ 情熱”が出会うことで、環境・資源問題の新しい地平が拓かれていくのかもしれません。

Projects

超高圧還元反応に基づく温室効果ガス排出極小化製鉄プロセス

重厚長大産業の宿命“高環境負荷”を革新的技術で解決する。

高炉の模式図

「鉄は国家なり」。文明・産業発展の推進力。

人類が初めて鉄を使い始めたのは、今からおよそ3500年前、アナトリア半島(現在のトルコ共和国の一部)に王国を築いたヒッタイトといわれています。近年、それ以前からの利用を示す鉄滓が遺跡から発見されているものの、ヒッタイトが秀でていたのは、良質で強い鉄をつくる高度な製鉄技術を持ち、文字通りそれを“ 武器”に栄えていった点です。その製法は秘中の秘とされ、周辺の民族に伝わることはありませんでしたが、紀元前1190年頃の滅亡によって流出。この人類に開かれた知見(=製鉄技術)は、エジプト・メソポタミアから始まる「鉄器時代」をも開く原動力となりました。
製鉄には大量の木炭が必要でした。鉄の需要が高まるに伴い、世界各地で樹木の乱伐による深刻な森林破壊が進みました。時は産業革命前夜、代替燃料として石炭への転換が迫られたものの、鉄の品質低下を招く成分が含まれるなどの欠点があったのです。やがて18世紀初頭にはコークス(石炭を蒸し焼きにした燃料。発熱量が大きく、高温を得られる)が発明され、それを還元材として用いた高炉製銑法が確立されました。この方法は製鉄の主流となり、現在に至るまで基本的な仕組みは変わっていません。

革新的製鉄プロセスで低炭素社会の実現を。

重厚長大産業である鉄鋼業は、その生産活動そのものが少なからぬ環境負荷を生むという宿命を抱えています。“ 環境の世紀”といわれる21 世紀の今、鉄鋼業が直面しているのがCO2の排出量削減というミッション。日本の製鉄技術はすでに世界トップのエネルギー効率を誇りますが、従来型のアプローチでは温室効果ガス削減の数値目標達成は非常に困難であると言わざるを得ません。
村上研究室が取り組むのは、鉄鋼生産に必要なエネルギーのおよそ70%を占める「製銑プロセス(高炉)」での「低温・効率化還元」の限界を目指した革新的技術です。これにより鉄の安定供給とCO2排出量削減の両立を目指します。具体的には、高い反応性を有する炭材と鉄鉱石粉の混合体(炭材内装鉱)を用いた超高圧還元プロセスの開発や、還元材として水素を利用した際の高炉内の還元および粉化挙動の評価など。一方、高炉原料の塊成化プロセスである焼結機の低炭素操業法の開発、バイオマスエネルギーの製鉄プロセス活用への可能性探査も推し進めています。中でも超高圧高速還元(~ 100 気圧)は、世界でも類を見ないものであり、前述の300年という歴史を持つ高炉製銑プロセスの概念を大きく変える可能性を持っています。
時代の要請に応える形で、成し遂げられた技術革新が、産業や社会・暮らしを大きく変革してきたことは、歴史が物語っています。低炭素社会づくりという使命を帯びた研究開発が、金属材料プロセスの姿をどう変えていくのでしょうか。「鉄に未来あり」。

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