生体機能材料学
生体機能材料学
生体機能材料学

生体機能材料学分野

教授
山本雅哉
助教
小林真子

再生医療研究の“その先”を支えるツール、医用高分子・ナノ材料。材料科学的手法によって設計・合成から機能評価までを担う。

 

高分子を用いて分子環境を制御し、医療研究に“使える”材料を開発。
これからの社会の望ましい有り様として、持続可能な開発/発展が唱えられています。これは環境保全に関する基本的な理念として世界的に共有されていますが、目を転ずれば、私たち一人ひとりの健やかな暮らしもまた持続可能性に資する要件として挙げられるのではないでしょうか。医療の発展――すなわち病気の原因・メカニズムの解明や、診断技術の高度化、治療成績の向上、新規創薬は、誰もが願ってやまないことであり、個々人の自己実現や幸福感にも直結するものです。
分子の創製から医用高分子・ナノ材料の設計・合成、機能評価といった材料科学的アプローチにより、医療に必要とされる材料研究ならびにツール開発に取り組むのが山本研究室。高分子への深い理解・知見と実績を基に、①糖刺激応答性高分子を利用した、血管構造を持つ生体組織の構築、②生体適合性高分子を機能性材料として用いるドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発、③特定の分子(タンパク質)を架橋点とする生体高分子の合成、などこれまで誰も成し得なかった領域に果敢にチャレンジしています。
こうした取り組みは、培養生体組織を利用した探究(疾病モデル作製と発症から経過に至るまでの段階的研究)、再生医療(幹細胞の体外増殖をサポート)、創薬開発(モデルの中での作用をみる)など、医療の基礎研究の最前線へとつながっていきます。

医学、化学、生命…いくつもの分野・領域にまたがる融合研究。
医療のための生体材料研究としては、人工臓器や硬組織代替システム、DDS、組織工学などがありますが、近年では何と言ってもiPS細胞に代表される幹細胞を用いた治療が大きな注目を集めています。しかし、再生医療に限らず、どのような医療も長い歳月、巨額な資金、多くの研究者や科学者の努力と労力が注がれ、医療の現場へと導入されます。こうした多くのプロセスの根幹となる基礎研究や、実用化に向けた技術(細胞培養技術、新薬の評価)を支えるのが、山本研究室が開発する高分子ツール。医学、化学、生命など複数の分野・領域にまたがるダイナミックな融合研究です。
山本研究室がもっとも大切にするのは“新規性のある挑戦”。すべては解のない探究です。失敗と無縁ではいられません。うまくいかなかったら「わからないということが、ひとつ解った」とポジティブに捉えていきます。前向きに、楽しくなければ研究じゃない。「まずは、やってみよう」が山本研究室の合言葉です。

Projects

糖刺激応答性をもつ高分子を利用。血管構造をもつ培養生体組織の構築

体の中では何が起こっているのか。
疾病発現のメカニズムと経路、薬剤の振る舞いの追跡・解明に

病気の診断や治療、創薬開発に。期待を集める医用高分子。

「高分子吸収体の働きでお肌サラサラ」、「高分子ポリマーが水分をしっかりキャッチ」など、製品のうたい文句に登場する“高分子”。これは文字通り“分子量がきわめて大きい分子”のことをいい、私たちの体を含め、自然界の産物のほとんどは高分子によって構成されています。また、社会や暮らしに不可欠な合成樹脂(プラスチック)や合成繊維、合成ゴム、紙パルプ、ガラスなどは人工的に合成された高分子です。
分子構造を改変(例えば低分子を重合させることによって高分子を製造)することで物質の機能や特性をデザインできるという理解が進んだのは20世紀初頭。以来、高分子は大きな可能性を持つ材料として注目され、世界中で研究開発が繰り広げられてきました。中でも期待を集めるのが、病気の診断や治療・創薬の進展を支える医用高分子。ソフトコンタクトレンズなどは、比較的古くから利用されている医療用高分子です。

環境因子に応答して溶解。
高分子ゲルは次世代型ソフトマテリアル。

医療用に使われる高分子は、物理的あるいは化学的な架橋によって三次元的な網目構造を形成し、その内部に溶媒(生体適合性の高い水など)を含んで膨らんだ状態を示します。こうした高分子ゲルの一部は、pHや温度などの環境条件に応答して体積を変化させる刺激応答性を持つことが知られています。つまり環境因子による膨潤制御が可能なソフトマテリアルというわけです。この特性を利用すれば、自律制御型薬物放出担体(ドラッグデリバリーシステム)や診断・治療デバイスなど、さらに高度な医療システムへの応用が視野に入ってきます。まさに次世代のインテリジェント材料です。
山本研究室が挑むのは、血管構造を持つ培養生体組織の構築。つまり“体内の微細な組織を、体外で再生 ”しようというものです。その鍵となるのが糖刺激応答性高分子。糖類存在下でのみ溶解する特性を利用して血管の鋳型をつくり、そこに血管の細胞を接着させ、生体に近い環境であるコラーゲンゲル内に埋め込むことによって、血管構造を持つ微小流路をつくる試みです。
こうした体外モデルを利用することで、病原菌やウイルス、有害物質が体内に取り込まれたのち、どのような経路や段階をたどり疾病として発現するかを解明することができます。また、薬剤の振る舞いを追跡することで、創薬分野に大きく貢献することも期待されます。最近では、幹細胞の細胞培養技術としての可能性も検討されつつあります。医療を前進させる高分子材料の研究開発を――山本研究室で貫かれる社会実装“現場”主義です。

Topics

雑誌会を終えた学部4年生をねぎらう『ジンギスカンパーティー』
材料は北海道直送!

6月、研究室に入った学部4年生が本格的な研究への第一歩として取り組むのが「雑誌会」。これは興味を持った外国語論文を読解し、その内容を簡潔に要約して、規定の時間内で口頭発表というもの。緊張のプレゼンテーションと質疑応答を乗り切ると、外から食欲をそそる良い匂いが…山本研究室恒例の「ジンギスカンパーティー」です。
雑誌会を乗り切った4年生を労おうと10数年前から始まったこの催しは、修士1年生が幹事を担当する習わし。主役のラム肉は、国産にこだわり北海道からお取り寄せ。量は、一人あたり1キロで注文。でも、10年前は一人2キロ(!)換算だったのだとか。先輩たちの肉食ぶりに驚きつつ、「野菜も食べなくっちゃ」とヘルシーさをアピール。たくさん食べて飲んで、今年もおいしかったね――このイベントを見守り続けているジンギスカン鍋も満足そうです。