エネルギー・コスト・CO2をカットして、高純度・高品質の鋼づくりを。
高度経済成長期には“産業の米”(産業の中核を担うもの)と称された鉄鋼。1980年以降はその呼称を半導体製品に譲り渡すことになりますが、今でも国力・産業力の基盤としての位置づけは変わりなく、日本では年間約1億トンもの鋼が製造されています。鉄に炭素とさまざまな合金元素を加えてつくられる合金鋼は、優れた特性を持っており、これまで用途やニーズに応じて多様な合金が開発されてきました。例えば、鉄とクロム・ニッケルの合金であるステンレス鋼は、みなさんもご存知のことでしょう。しかし、資源に乏しい日本では、鉄鉱石を始め、クロム・ニッケルなどの重要な合金元素もほぼ全量輸入に頼っています。
三木研究室では、製鉄プロセスにおける物理化学的・反応工学的研究を通じて、少ないエネルギー・時間・コスト、CO2排出量で高純度・高品質の金属を製造する方法を探究しています。これは今の時代に求められる省エネルギー、環境低負荷にも沿うものです。また、合金をつくる際には、不純物を取り除く必要がありますが、典型的な不純物である酸素を効率的に除去する方法の開発にも取り組んでいます。この技術は、様々な合金に適用できる可能性を持つものであり、大きな期待を集めています。
製鋼プロセスの“もったいない”に着目。スラグの有効活用を提案。
鉄鋼製造プロセスにおける“もったいない”への取り組みも三木研究室の特徴。副生成物として産出される製鋼スラグには、悪影響を及ぼす不純物として徹底的に除かれるリンを始めとして、鉄やシリコンなどの酸化物も含まれています。製鋼プロセスにおいては邪魔者とされるリンですが、実はこちらもほぼすべてを輸入に依存する貴重な資源です。そこで製鋼スラグから、磁気分離によってリンを分離・回収する技術を開発(特許出願中)。現在、大部分が埋め立て処理されている製鋼スラグの大幅削減を実現するとともに、物質循環にも資する技術です。他にも製鋼スラグに関する取り組みとしては、藻場・干潟の造成基盤として再利用し、海洋植物を繁殖させ、海中の環境修復ならびにCO2吸収・固定化するプロジェクトが着々と進められています。
日本は資源小国ですが、世界に誇れる卓越した研究開発力、そして技術力があります。それらの可能性が、次代に求められる持続可能な環境調和型社会をつくる底力となっていくことでしょう。