状態図が、新材料への道筋を示す
常圧の水が100℃で水蒸気になり、0️℃で氷になるように、金属も温度により状態を変えます。状態図とは、温度や圧力、混合する濃度によって物質の状態(相)がどう変わるかを表した図で、『材料開発の地図』とも言われる、非常に重要な基礎情報です。
新材料の開発といっても、その領域は極めて広大な未開の地ですから、探索には、目指す方角を示す足がかりとなる資料が必要です。状態図は地図と同様に、新しい材料を設計したり、材料の性能を向上させたりする際に、現在地を確認しながら、ときには進行方向を示唆してくれるもの。
二元系・三元系を中心とした状態図は、古くから地道な実験によって決定されてきましたが、現在では、多数の元素の組み合わせには熱力学に基づいて状態図シミュレーションを行う手法が主流になっており、材料開発は以前よりも効率的に行える状態へと進化しています。
人類共通の財産である“状態図”を更新
新しい材料を生み出すためには、どの元素をどれくらいの割合で組み合わせるか、という合金設計が腕の見せ所ですが、合金設計をする際に必要になる状態図には、十分に決定されていない元素の組み合わせが存在します。先人たちが整備してきた状態図にも未だに決定されていない領域があるのです。
大森研究室では、そのような未踏領域を開拓し、状態図を整備していく研究に取り組んでいます。その過程で、誰も注目していなかった新しい元素の組み合わせで新材料を生み出せることがあり、一部は試験的な運用を経て、すでに工業製品として実用化しています。
元素を組み合わせと組織制御により新材料を開発する面白さ
私たちの研究室では、元素の組み合わせを考えて新材料を設計し、ナノ・ミクロ・マクロの金属組織を加工や熱処理で制御して、新しい機能を持つ新材料の創製や特性の飛躍的向上を目指した研究を行っています。さらにこれらの研究の基盤となる状態図を実験により決定する研究も行っています。
この基礎研究に基づき、シミュレーションも利用しながら材料設計や組織制御の研究に取り組んでいます。まだ誰も見たことのない未開の地を独自に探索し、新しい地図を書き起こしながら、新材料の開発に力を注いでいるのです。私たちの開発した新材料は、建築、医療などの分野ではすでに実用化されており、新材料による諸問題の解決や技術革新を目指しています。