材料物理化学分野

教授
朱 鴻民
准教授
竹田 修
助教
盧 鑫

材料の価値を変え、社会や暮らしに影響を与える、製造プロセスの革新。高効率で省エネルギーな新しい製造方法の探索・開発にチャレンジ。

製造プロセスの革新が材料の価値を変える。

1855年、パリ万国博覧会において、ひときわ人々の興味と関心を集めた展示品がありました。アルミニウム(Al)のインゴットです。「粘土から得た銀」と称されたこの希少な金属は、時の皇帝ナポレオン3 世を魅了しました。出品者はフランスの科学者ドビル。1825年に世界で初めてアルミニウムの単離に成功したデンマークの物理学者エルステッドの手法を改良し、工業生産法を開発した人物です。その後、溶融塩電解法であるホール・エルー法(1886年)、およびアルミナを製造するバイヤー法(1888年)といった製造プロセスの開発により、アルミニウムの大量生産が可能になり、急速に社会に広がりました。これらの方法は、120年以上たった今も最新の製造工程で採用されています。製造プロセスの革新が材料の価値を大きく変え、私たちの暮らしや社会に多大なインパクトを与えたのです。
一方で、チタン(Ti)のように、高い比強度や優れた耐食性といった抜群の特性を持ちながら、生産性の低さ(プロセスが複雑で連続生産ができない)と製造コストの高さから、普及が限定的な材料もあります。チタンは現在も、1940年代に確立されたクロール法によって生産されており、より効率的な製造法の開発に向けて、世界中の研究者がしのぎを削っています。朱研究室では、原料であるTiO2を炭素熱還元して中間生成物(TiCxOy)をつくり、それを直接電気分解する新しい製錬法の開発に取り組んでいます。これが実用されれば、製造時間の大幅な短縮と省エネルギー化が達成され、チタンの飛躍的な普及が期待されます。

より高機能でより環境に優しい材料を創出する。
現在、日本は、東日本大震災に伴う原子力発電所での事故を受けて、電力源のほとんどを火力発電に頼っています。しかし、火力発電の利用は、原料コストが高いだけでなく、CO2の発生も避けられません。そこで、現在よりさらに高い温度で発電することで発電効率を上げることが求められています。朱研究室では、超高温での発電を可能にする装置材料の開発を行っています。具体的は、装置材料の表面に酸化に強い被膜を形成し、材料が超高温に耐えられるようにする研究を行っています。
また、次世代のエネルギー源の主役として水素が期待されています。水素を燃料とした燃焼や発電の効率は高く、副生するものが水だけで、とてもクリーンなエネルギー源です。しかし、水素をいかに効率よく製造するかが普及の鍵を握っています。朱研究室では、太陽光のエネルギーを上手に取り込む新規な光触媒を開発し、水から水素を効率よく製造する研究を行っています。「社会に役立つ研究を」―そのシンプルで真っ直ぐな理念が、チャレンジングな試みを支えています。

Projects

高効率な生成技術の確立が急務 ~水から水素を製造する高性能光触媒の開発~

環境・エネルギー問題解決の切り札として期待を集める「水素」。

可視光線下のGO‒CdS@TaONコア/シェル型構造システムの電荷分離および移動の略図。光が光触媒に入射すると、励起電子(e-)と正孔(h+)が生成され、それぞれの還元反応、酸化反応によって、水素ならびに酸素が発生する。ここでe-は、助触媒として担持されたPt(白金)だけでなくグラフェン・シート上の炭素原子にも素早く移行するため、電荷分離が効率よく行われる。

※燃料電池(fuel cell):燃料(主に水素、負極活物質)と酸化剤(主に酸素、正極活物質)を電気化学的に反応させて、その反応エネルギーを電気として直接取り出す直流発電装置。水素を反応させて、電気を取り出す仕組みとしては水の電気分解の逆反応である。化学エネルギーから電気エネルギーへの変換途上で、熱エネルギーや運動エネルギーという形態を経ないため発電効率が高い。

クリーンな二次エネルギーとしての期待大。待たれる革新的な水素製造技術。

ガソリンからハイブリッド(HV)、電気(EV)、そして燃料電池自動車(FCV)へ。国内主要自動車メーカーはいよいよ燃料電池※を動力源とするFCVの本格販売に乗り出します。FCVの普及拡大のためには多くのハードルがありますが、そのひとつに燃料である水素を供給するインフラの整備が挙げられています。一方、着々と設置台数を増やしているのが定置用燃料電池。現在、事業用や家庭用として展開されているりん酸形燃料電池(PAFC)、固体高分子形燃料電池(PEFC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、都市ガスやLPガスを改質(組成・性質を改良)することにより、燃料の水素をつくっています(他の水素供給方法もあります)。
エネルギー源の多様化や環境負荷低減に向け、クリーンな二次エネルギー「水素」が注目されています。しかし水素は天然資源として存在しないため、化石燃料などから製造しなければならず、地球温暖化の原因とされるCO2を発生させます。また、水を電気分解して得る方法では、大量の電力を必要とします。「水素社会」の真の実現のためには、革新的な水素生成技術がキーテクノロジーとなります。朱教授らのグループは、太陽光(可視光線)を照射することで、水から水素を取り出す「光触媒」の開発に成功。他の同様な光触媒と異なるのは、水素製造の効率を飛躍的に向上させた点にあります。

無尽蔵な太陽光エネルギーを利用して、水から水素を製造する「光触媒」。

水分解によって水素を取り出す際に、ある種のエネルギー変換媒体として働く「光触媒」は、日本が世界に先駆けて研究に取り組んできた分野です。実用に向けては、より活性の高い材料、すなわち太陽光の大部分を占める可視光線によって、効率よく大量に水素を製造する光触媒の材料開発が不可欠です。
可視光応答型光触媒のひとつとしてTaON(酸窒化タンタル)がありますが、合成の過程で格子欠陥が生じ、それが触媒活性を低下させてしまうといった欠点がありました。朱教授らは、TaONに半導体であるCdS(硫化カドミウム)を組み合わせ、graphene Oxide(酸化グラフェン:GO)ナノシート上に構築するという独自のGO‒CdS@TaONコア/シェル型構造システムを開発しました。これは無担持(単独)のTaON光触媒に比べ、約70倍もスピーディーに水素を製造できる能力を持ちます。光触媒になり得る材料は、酸化チタンを始めとして多種ありますが、この研究成果はTaONをベースとした光触媒の可能性に大きな一石を投じたとして注目されています。また、本研究で開発した光触媒材料は、水素製造に限らず、有害物質を効率的に分解・除去できる環境浄化材料としても展開が可能です。
「水素社会」の基幹技術といえる高効率でクリーン、そして省エネルギーな水素燃料製造技術の確立に向けて―朱研究室の挑戦は、未来の社会の姿とつながっています。

Topics

『世界に一つだけのガラス実験器具』
メンバー全員が職人の腕前?

写真の実験器具、実はこれすべて学生さんの手作りなのです。「高温の液体を扱う実験なので、壊すことも多いですが、また新たに作ったり、修理したりするのもお手の物ですよ」。朱研究室において必須のスキル、それがガラス製作技術なのです。
研究室に配属後、まず行われるのが、朱先生による講習。玄人はだしの腕前に感嘆する間もなく、すぐに実技へ。それから時間を見つけては練習に励み、3か月も経てば、単純な形の試験管であれば自分で作れるようになるのだといいます。朱研究室が自作にこだわるワケは大きくふたつ。ひとつは、市販品にはない形、使い勝手のよい実験器具をつくれるということ。そして、時間と研究費の節約になるという涙ぐましい理由も。オンリーワンの実験器具から、ナンバーワンの研究成果が生まれていきます。

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