急がれるグローバル人材の育成。
異文化への理解と幅広い教養が必須。


東北大学は、昨年度、文部科学省が推進する「スーパーグローバル大学創成支援(トップ型)」※5に採択され、さらなる国際競争力の強化に取り組んでいます。中でも、「材料科学」は、これまでの実績と成果を背景に、“世界十指”に入る学問領域を目指すことが課せられています。私たちの責任も重大です。同時に、国際社会で先導的な役割を果たしていけるグローバル人材の育成も、私たち教員の責務に加えられました。「異文化と多様性を理解し、コミュニケーションする能力」の前提となるのが、語学力です。

私は、父の仕事の関係で小学6年間をオーストラリアで過ごしました。右も左もわからないままに、地元の公立小学校に通うことになりましたが、言語能力が発達する学童期だったことも幸いし、ごく自然に英語を第二言語として習得することができました。苦労したのは帰国してからで、はっきりとした物言いや周囲とは異なる個性の発揮は、同級生の間では突出した行為として受け取られてしまうとわかり、少しずつ日本仕様(笑)へと変えていきました。しばしば帰国子女が直面する逆適応の難しさですね。

他者を尊重しながら、自己主張する姿勢は、オーストラリアの小学校で取り入れられていたディベート※6の授業で培われたように思います。様々なバックグラウンド――たとえば人種、文化、習慣を持つ人びとが集う社会では、お互いの意思の疎通と理解のために、明確に自身の考えを伝える力が必要になります。冒頭のグローバル人材に関しても、英語(もしくは他の言語)が母国語並みに操れるというだけではなく、異文化への敬意や受容を基に、筋道を立てて主張し、議論し、新しい価値を生み出す力を備えなくてはならないと思います。それには、理論を構築する礎となる母国語に習熟すること、幅広い教養を身に着けることが重要なのではないでしょうか。母国語の大切さは、多言語話者の一人として身に沁みて感じています。

(図/写真2)留学時に受け入れてくださったPär Jönsson(パール・ヨンソン)教授ご夫妻。

(図/写真2)「海外先進教育研究実践支援プログラム(文部科学省)」で、2006年6月からの半年間、スウェーデン王立工科大学に研究留学した三木先生。「スウェーデンといえば、車好きの方なら世界的に有名な自動車メーカーをすぐに思い浮かべられることでしょう。もっとも最近では、世界最大の家具チェーンやファストファッションメーカーがつとに知られているようですね。鉄鋼業も盛んで、特殊鋼のルーツともいえるスウェーデン鋼が生み出されました」。写真は、留学時に受け入れてくださったPär Jönsson(パール・ヨンソン)教授ご夫妻。

教養といえば、私の母校では、伝統的にリベラルアーツ教育※7が重視されており、学部1・2年生は教養学部前期課程でみっちり学ぶことになります。今ではその意味と意義を理解できますが、実は、当時はあまり興味が持てませんでした。学部を卒業したら就職かなぁ、という漠然としたキャリアプランが転換するのは3年生の時。熱力学の授業がとてもおもしろかったのです。これは担当教官の熱心な授業によるところも大きかったですね。教授する立場になった今、私のロールモデルとなっています。

将来の進路として研究者を意識し始めたものの、研究がそんなに甘いものではないとわかるのは4年生の時。寝食を惜しみ、半年間で100の実験を行うも、使えるデータが取れたのは3つだけ。手痛い洗礼を受けました。しかし、時に目の覚めるようなデータや結果を見せてくれる時もあります。実験・研究に魅せられる瞬間ですね。

大学進学に際して、高校生の多くは、多大な時間と努力を費やすことでしょう。中には、合格が自己目的化してしまう学生さんもいるようですが、大学はゴールではなく、通過点です。社会を視野に置けば、スタート地点ともいえます。小さな出会いや気付きが、新しい道を拓くきっかけになってくれることもあるでしょう。常にアンテナを張り巡らせ、好奇心をもって、自ら求め、いろいろなことに挑戦してほしいと願っています。“You’ll never find a rainbow if you’re looking down.” C. Chaplin

※5
スーパーグローバル大学創成支援:海外大学との連携などを通じて、徹底した国際化と大学改革を断行し、世界レベルの教育研究を行う「グローバル大学」を重点支援するために2014年、文部科学省が創設した事業。東北大学が採択されたトップ型は、世界ランキングトップ100を目指す力のある大学が対象。
※6
ディベート:示された主題について、異なる立場に分かれて議論すること
※7
リベラルアーツ:古代ギリシャ・ローマに起源をもつ。幅広い教養と論理的思考力の習得を通じ、広い視野に立ったものの見方や考え方を養う。今日、リベラルアーツを標榜する大学ごとに、その理念・方針は異なる。
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