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研究成果

圧電素子を超える振動発電機能をもつクラッド鋼板を開発
身のまわりの振動から自動車やインフラの振動まで電気に変換
東北大学・東北特殊鋼 共同開発

【概要】
東北大学大学院工学研究科材料システム工学専攻 成田史生教授と東北特殊鋼株式会社(山口桂一郎社長)は、大きな逆磁歪効果注1を示し、振動発電機能を有するクラッド鋼板注2を共同開発しました。
新開発のクラッド鋼板は、冷間圧延鋼板(SPCC相当)とFeCo系磁歪材料注3の冷間圧延板とを熱拡散接合させたものです。このクラッド構造によって、FeCo磁歪材料単独の場合よりも数倍から20倍以上の振動発電出力が得られ、電磁力学場の数値シミュレーションにより増幅機構解明にも成功しました。
本開発により、身のまわりの生活振動や工場設備などの微小な振動を利用するIoTセンサー用電源から、強靱で衝撃に強い材質を活かして、鉄道車両・自動車などの走行振動や風力・水力などを利用する大型のエネルギーハーベスティングへの応用が可能となり、省電力が課題のEV(電気自動車)での利用も期待されます。

【問い合わせ先】
東北大学大学院工学研究科
材料システム工学専攻
成田史生(教授)
電話/FAX: 022-795-7342
E-mail: narita * material.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北特殊鋼株式会社
研究開発部 開発営業チーム:
E-mail: toiawase@tohokusteel.com

【研究の詳細】
今回開発したクラッド鋼板は、従来から振動発電素子として知られている圧電素子注4と比較すると、微小な振動(加速度0.1 G、振幅20 µm、周波数50 Hz)では25倍以上の出力が確認されており、IoTなどの無線センサー用電源としては十分な電力が得られ、破損しにくいという点も特徴です。また、冷間圧延鋼板をニッケル板におきかえたクラッド構造にすると、より大きな出力(圧電素子の50倍以上)が得られ、超磁歪材料Galfenol注5に匹敵する発電性能を有する可能性もあり、調査を進めています。

さらに、圧電材料や超磁歪材料の板を用いた振動発電器において発電効率を大きくするためによく用いられる、板面方向の伸縮を大きくする平行梁構造注6のような複雑な構造を必要とせず、クラッド鋼板の単純な曲げ振動により発電ができることも特徴の一つです。

東北大学と東北特殊鋼は、以前よりFeCo系磁歪材料の共同開発注7を行っており、東北特殊鋼では、2016年より自社の鋼材工場の設備の振動を利用したFeCo系磁歪材料による振動発電器を電源とするIoTセンサーシステム(モーター監視)を試験的に運用しています。今回開発したクラッド鋼板による振動発電器を利用することにより、これまで振動が非常に微小なためにセンサーノードが機能しなかった箇所にもシステムを拡大することができました。

また、将来の大型化を想定した試験として、クラッド鋼板の小片による振動発電器を、自動車を模した台車に取り付けて走行させる実験では、数mW(数10 V)以上の出力を確認しており(写真)、実際の自動車ではW(ワット)級あるいは路面状態によってはそれ以上の発電量が期待できると考えられます。

本開発成果は2018年2月12日に米国物理学協会速報誌「Applied Physics Letters」のオンライン版で公開されました。

以上


(写真)

自動車などの車両を模した台車にクラッド鋼板の小片(1mm厚×5mm幅×70mm長)を用いた振動発電器を載せ、走行振動によりLEDを光らせる実験。
写真左が静止状態、右が走行時LED点灯している様子。

自動車などの車両を模した台車にクラッド鋼板の小片(1mm厚×5mm幅×70mm長)を用いた振動発電器を載せ、走行振動によりLEDを光らせる実験。
写真左が静止状態、右が走行時LED点灯している様子。

【用語説明】
注1 逆磁歪効果:
力を加えることによって材料内部の磁化の強さが変化する現象
注2 クラッド鋼板:
性質の異なる異種の金属を圧着した鋼板
注3 FeCo系磁歪材料:
鉄(Fe)とコバルト(Co)を主成分とした、磁場によって寸法が変化する材料
注4 圧電素子:
加えられた力を電圧に変換する、あるいは電圧を力に変換する素子で、セラミックスが主流
注5 超磁歪材料(Galfenol):
通常の磁歪材料に比べ、磁場による形状の変化量が 100倍程度大きな材料
注6 平行梁構造:
二枚の板を平行に並べ、その両端を異種材に接合した構造
注7 共同開発:
科学技術振興機構(JST)の平成24年度発足のプロジェクトにおける弘前大学、東北大学、及び東北特殊鋼の3者共同開発